見出し画像

【画廊探訪 No.088】闇の中、陰影を導く啓示の灯に頭を垂れて ―――林明日美個展『光の時間と祈り』に寄せて―――

闇の中、陰影を導く啓示の灯に頭を垂れて
―――林明日美個展『光の時間と祈り』(Gallery Face to Face) に寄せて―――
                            襾漫敏彦
 カタストロフィの中で箱の中で耐えたノア達にもたらされたのは、雲間からさし込む天上の光であった。自然をそのままで知らしめる啓示の光、そして平和と未来を示す鳩。ノア達は災厄の中、長い自閉の果てに、世界と再会したのである。

 林明日美氏はメゾチントの作家である。ネガとポジ、シスとトランス、光と影、メゾチントは、いわば負からはじまる技法である。闇の粒子をロッカーで奮いおこし、空間から光を追放していく。そして沈黙と静寂が支配する箱の中で、身体(からだ)が導くものに光を与えていく。ぼんやりと浮かびあがる姿と物音、彼女は、もう一度、世界を認識していく。

 感覚がとらえるものは、曖昧だといわれている。それを神が与えた知性によって人は形をととのえていく。かくして彼女の精神は、意識となって現れ、命名されて〈言葉〉となっていく。
 〈言葉〉から感覚をみれば曖昧であるが、本人にとっては確かな体験である。その間のズレ、とりこぼしていたもの、それは無意識や無自覚でもあるのかもしれない。もしくは、あえて意識から追放したものかもしれない。それは、抑圧や負い目となり構図や加減、色調に浸みこんでくる。そして、啓示への信頼も揺らいでくる。自信と不安の曖昧さ、その妙味の中にメゾチントの手法もあるかもしれない。
 人類は、〈超越〉、私とあなた、違うものの共通のものを足がかりにして、〈超〉えたもの、聖なるものに手をのばし続けてきた。箱の中で受け身となって、自分と神を信じて耐えてこそ、新しい何かと出会い生まれかわる。啓示の光とは、そういうことかもしれない。

✳︎✳︎✳︎

林明日美さんのサイトです。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?