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【画廊探訪 No.032】陽光を望んで、幻に閉ざされた今を耐える――石井陽菜展に寄せて――

陽光を望んで、幻に閉ざされた今を耐える
――『石井陽菜展 ―Peace of mind― 』(JINEN GALLERY)に寄せて――
襾漫敏彦
 今年は、いつもより梅雨の入りが早い。時折、上から滴(しずく)が落ちてくるある日、傘をもって彼女の個展に出かけた。おそとには行けないよといわれて、水滴のたれる窓ガラスから外を眺めては、陽が射すのを待ちわびていた子供の頃の記憶が甦る。
 
 石井陽菜氏は、ドローイングを元にした図案を版木におこして、金粉を混じた水性絵具をインクとして、和紙に版を刷る。色紙のような方形の枠の中で、余白をゆったりと湛えた作品は、あたかも結露して曇った窓ガラスに指で描いた線画のようでもある。
 絵具に含まれた金粉は、見るものの動きにあわせて煌めく。その微妙な輝きのゆらぎは、画像の体(たい)を動かす。それは、まるで、見るものの心のゆらぎが、幾重にも重なって現れたかのようでもある。
 そして、筆書きのタッチの残る水性絵具の描線は、紙の厚みに吸いこまれるのでなく、版木から引き剥がされる時の後をひくような厚みを持っている。この厚みの中に、平面にある空間的なふくらみが現れる。

 人にうつす病の流行は、心と体を雨のように降りしきる不安に閉じこめさせ、あるかなきかの幻を、外を眺める窓ガラスに映し出す。そこに映るのは、外へ飛び出そうとしては諦めた可能性への未練かもしれない。
 籠の鳥のように閉じこめられながらも出会いを信じて耐えてさえずる。その逡巡の中には、自分を組み直していこうとする限りなき豊かな挑戦がある。
ここでの小さなひとときの中にある無限と永遠に湾曲していく時の帳。陽の光があらわれるのをここで待つわずかな隙間にこそ、私やあなたの豊かさの故郷がある。

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2021年、コロナの流行下での個展で、お会いしました。直にみると、小さな発見が沢山あります。

彼女独自のWEBSITEは、まだなさそうですので、JINENでの展示の際のものを添付しておきます。


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