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【画廊探訪 No.091】過去の刃で現在を削って ―――f.e.i art gallery 『鶴田美香子 切り絵展』に寄せて―――

過去の刃で現在を削って
―――f.e.i art gallery 『鶴田美香子 切り絵展』に寄せて―――
襾漫敏彦

 空間は、様々なもので象(かたど)られている。あるものは光を遮り、乱された流れは更に穴を開けてゆく。多くの動きは気として満ち溢れ流れ出ていく。僕等は、捉え難い動きに誘われて、草木(くさき)がそうするように空間の中に手をかざす。

 鶴田美香子氏は、切り絵作家である。彼女は油絵から大学の門を敲く(たたく)が、感性を刺激する何かに導かれて、油彩を離れ、切り絵の世界に移っていく。大小、様々な作品をつくるが、黒い台紙の上に切った一枚の紙を貼るのでなく、壁に掛けたり、障子紙の上に載せて天井から吊るす。木箱にはめたガラスに切り絵を貼った作品もある。

 木箱の作品では、光は陰影の綾をなして箱の内側に影を作る。影は背景として、切り絵と一体となって空間を象る。このように彼女の表現は、光を受ける含みを残している。

 鶴田氏は、空間の中にある力の場を感じ、それに従う。力の場は空間の身体、経験、そして過去。力に従って、紙に刃をいれる。そして色を紙に含ませてゆく。それは、空間の力の流れを模写しているともいえる。

 広場へと作品を持ち出すこと、それは新しい空間の中に彼女の作成した空間の記憶を割り込ませること。現在(いま)を過去という刃で、切り抜くこと。彼女の切り絵の表現は、空間そのものを彫刻するためのひとつの切断だ。積み重ねられてきた古い記憶で切れ目をいれられて、今は新しい未来への一歩を踏み出す。


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