見出し画像

【画廊探訪 No.037】多摩の森の一筋の笛の音 ―――七人展 田中俊成出品に寄せて―――

多摩の森の一筋の笛の音
―――七人展 仏教美術 木彫 能面 神楽面
             田中俊成出品に寄せて―――
   襾漫 敏彦
 多摩の地の羽村には、その名称の故か、天狗が住まうのかもしれない。森の木々を谺(こだま)する笛の音を聞きつけて飛んでいったのか。

 七人展で、まず出会うのは、犬の神楽面である。眉間の傍らの眉の生え際が、少し色を抑えてある。見事だと思った。作者の田中俊成氏、彼は幼少の頃より、神楽の囃子をやり、笛の名手であった。自ら使う神楽の面を拵えんとし、遂には、新井達矢氏に巡り会い、その門下となったようである。言葉少なく、木訥とはこういう事かと思う人であった。

 彼の打つ面は、神楽に使われる面である。神楽は、舞と囃子が一つとなり、皆をひきつれて、扶桑の天地に響きわたる。その笛を以て、森の木霊となった作者は、仏教でいう止観とでもいうべき境地を幾度となく行き交ったのであろう。面に刃があてられる時、彼は木となり、木は彼となるが如く、渾然として作業がなされるのだろう。それ故か、その神楽面には、感情や拘わりといった作者の執着のかけらとでもいうべき、余計なものを感じないのである。それは幼少の頃より、囃子によって培われた、深い何かを敬う精神に通じるのであろう。

 彼の面を打つ音は、多摩の木々の間を笛の音の如く響きわたり、羽村の天狗は杉の梢で、その音色に聴き惚れているのだろう。


*****

田村さんは、【画廊探訪 No.031】の新井達矢さんのお弟子さんです。

丁寧なお方です。

ユーチューブの映像のリンクも添付しておきます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?