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【画廊探訪 NO.122】物質と記憶を結ぶ創造的進化―――七人展『工燈』杉本一成出品作品に寄せて―――

物質と記憶を結ぶ創造的進化
――第十四回 七人展『工燈』(高岩寺会館)杉本一成出品作品に寄せて―――
襾漫敏彦

 仏師、面打、木彫、仏教美術といった伝統工芸の若手が集まって、毎年行っているグループ展『工燈』が今年も開催された。今回で十四回目となる。
 仏像制作の杉本一成氏は、数年前から参加している。彼は、木彫と焼成粘土の作品を出展している。重みと硬さを感じさせる焼き固めて造った素材を以って表現される飛鳥時代に範を置く彼の仏像は、海を渡っても毀たれぬ普遍(イデア)のもつ金剛的な強さを含んでいるようである。あたかも天竺の地で奏でられるヘレニズムの芳香をまとっているようでもある。

 伝統工芸というのは、これまでの技法と形式を頑なにまもっているものと考えられがちだが、ひとりひとりの個性が、染み出すように作品の中に顕れてくる。そして、作品はおのずと、その人自身に歩み寄っていく。仏像とどのような出会い方をするのか、それはひとりひとりの心の有様を映し出す。

 アニミズムのこの国で人々は様々なものに生命(いのち)の故郷を見出してきた。山や川、海、双樹、そして巨岩、様々なところから神はあらわれた。伝統の形式は、その歴史と風土の中で育まれるが、形式に形づくられながらも、その中の“いま”と“ここ”に放り込まれた人が、呻くように発した表現が、形式に、伝統に、風土に、歴史に新しい息吹を吹き込む。
 樹木は、大地へ、天へと生を拡げていく。この地の仏像は、いつしか樹々の生命と結びついていった。それに比して杉本の表現は、周囲からの力によって鍛えられた固さがある。それは、足元から掘り起こされて見出された地中に眠る財宝のように、見過ごした我々の記憶かもしれない。もしくは、未来へつながる小さな鍵かもしれない。

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