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【画廊探訪 No.137】切り裂くように知る道程の詩(うた)――養清堂画廊「木版10人展」染矢義之出品作品に寄せて――

切り裂くように知る道程の詩(うた)
――養清堂画廊「木版10人展」染矢義之出品作品に寄せて――

襾漫敏彦

 昔、甲骨文字を追求する書家と話をしたことがある。文字を刻み込むように書くと、私が表現したとき、彼は、甲骨文字は、線を刻んだのではない、そこにある骨を裂いた亀裂なのだと訂正された。書家は、空間が切り裂かれる、それをどう表現するかに苦心しているとも言っていた。


 染矢義之氏は、彫刻、そして版画を制作するアーティストである。今回のグループ展では、彼は版画を出品しているが、木を版として黒の単色で刷りだしたシンプルな作品を出品している。染矢は、前後左右、上下陰陽といった趣きを失った漆黒の空間を切り裂くように版木を彫り抜いていく。それは、中央の軸芯から遠ざかるように導かれていく意思、潜在する力の具現化のようでもある。

 そして顕われてくるものは、溢れ出す活力のエネルギーと避けられぬ運命の静けさと、それらが導き出す動揺。染矢の表現は、見る者の内側の何かを刺激して、かつての記憶を鑑賞のスクリーンとして引きずり出す。

 

 染矢は彫刻を学び、美の世界にはいってきた。そして、ある所で独力で版画の技法を学び、もう一つの表現に踏み出す。

 空間を歪曲し、時にいらだたせ、時に静める立体の表現、そこには存在と不在の対立があらわれる。そこに“ある”ことによって、切り裂いたからこそ、切れなかったところが残る。

 染矢の版画は、空間表現を凝視したものによる存在と不在の間隙のコンセプチュアルな表現かもしれない。色や形は時として、雑音になる。それ故に限りなく排除されている。

 字を問うた書家は、天空を切り裂く稲妻の響きを聞いた。染矢が彫ることを問うたとき、眼の前にひかれた運命の道を見、道程の詩(うた)を聞いたのかもしれない。

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染矢さんは、彫刻から木版へと活動を広げた方です。サイトは確認できませんが、ネットで、さまざまな作品が確認できます。

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