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【画廊探訪 No.103】色彩の宮殿の蜃気楼に手を伸ばして―――養清堂画廊企画『――版絵――』中村花絵出展作品に寄せて―――

色彩の宮殿の蜃気楼に手を伸ばして
―――養清堂画廊企画『――版絵――』中村花絵出展作品に寄せて―――
                                  襾漫敏彦

 灼熱の真夏の或る日、アスファルトの大地に陽炎がたつ。それは、光の屈折率を変化させた熱と大気のいたずらである。けれども、モノと私達の視覚の間には、それほどの隔たりが、あるのである。

 中村花絵氏は、シルク・スクリーンを使って原色の粒を散らしながら、画面を形成する。それは、長年使われたモニター画面のようでもあり、輪郭を失った水彩のようでもある。色をぼんやりと集約させて、色彩のもつ立体感と重層感を再表現する。

 あいまいさと明確さ。彼女は、色の粒子を明確に版として刷りわける。そのひとつひとつの粒子は、滲んで拡散しているというより融合しきれない何かである。それは、稚き女の子が目を輝かせるビーズのようでもある。

 ビーズは、単なる粒ではない。それは、繋げられ、関わりをもって、形をなす。ビーズの孔(あな)は、糸でつなげるための“空白”であり、新しい出会いの為の可能性である。

 組みあげられた装飾品のような人工の光や輝きに、目を眩ませる女性としての彼女と、小箱につめ込んだビーズをかきまぜながら、“ひとりごと”いう少女としての彼女。今、彼女の作品は、その二つの間にたちのぼるのであろうか。

 中村氏は靄(もや)の中に浮かびあがる夜景のような光のいたずらを版に押しあてようとしている。いまは、まだ、近づいては遠ざかる逃げ水のようなものかもしれない。

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女子美術大学での教員紹介でのプロフィールあげておきます



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