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【画廊探訪 No.109】おもちゃ箱をひっくり返して、僕を写した鏡を探す――岩田駿一個展『お正月だよ!岩田駿一2020』(ギャラリー・マルヒ)に寄せて――

おもちゃ箱をひっくり返して、僕を写した鏡を探す
――岩田駿一個展『お正月だよ!岩田駿一2020』(ギャラリー・マルヒ)に寄せて――
                                   襾漫敏彦
僕らの世代の記憶の底には、駆けまわって遊んだ記憶が残っている。夕暮れは、僕らの時間の終わりを告げるサイレンでもあった。安い玩具や拾ったものは、キラキラする宝物でもあった。夜空の星々のような輝きを思い返しながら考える。僕って、何でできているのだろうかと。

 岩田駿一は、自分の内にある記憶の〈痕跡〉を、幼い頃、まわりにあふれていたものに投影していく。そして、その断片を、かって日常の傍らにあふれていた熊手、羽子板、法被、Tシャツといった形象を展示の〈トポス〉として並べていく。それは、あたかも、時を超えてしゅつげんしたオモチャ箱である。

 私という世界は、何でできているのであろうか。遺伝子のような定義や始まり、原点をいう人もいよう。もしくは欲望が、刻、一刻と織りなすインスタレーションのようなものと考える人もいる。けれども僕らは多くの思い出と体験をかかえている。私というのは、記憶と体験の総体のなのか、それともそれをまとめて配置する力なのか。

 我々は物に囲まれて暮らしている。その物への執着を手がかりに、日本は敗戦後、復興を遂げた。昭和は、生産主義の時代でもあり、消費主義への道を開いた時代でもあった。
 そして平成、それは冷戦終了からはじまり、バブル崩壊、グローバリズム、そして原理主義へと推移する。物とイメージ、支えあっていた筈のお互いが引き離されていく。
 平成が令和に変わり、岩田氏は、一つの節目、正月として今回の展示を行った。それは己を構造から考え直す行為であり、問いかけであり、記憶のパサージュなのであろう。


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岩田さんの不思議なサイトです。



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