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【画廊探訪 No.017】彫りに皺が刻まれて ―――七人展 宮本裕太出品に寄せて―――

彫りに皺が刻まれて
―――七人展 仏教美術 木彫 能面 神楽面
             宮本裕太出品に寄せて―――
   襾漫 敏彦
 天才や個性が高らかに謳われる現代、芸術やアートは、自分を前に出す営みであり、才能を世間に承認させる行為である。しかし、木彫りをはじめ工芸というものは、生活や暮らしで求められた人の用に適うことが主である。いわば、時と場所に培われて皆が承認した伝統と方法を擬えていくことである。

 宮本裕太氏は富山の井波で修行し、生を受けた故郷・秩父に戻ってきた木彫刻の人である。秩父というのは、我を張って争いに明け暮れする都市の人間が捨て去った関東の文化の古層が、いまだ色濃く残る所である。土地の歌舞伎や浄瑠璃の飾りをはじめ、欄間の細工、木造の建築や祭りの工芸に携わっているようである。
 私が彼を知ったのは、その天神像であった。一見、武人のような面持ちがある。今回、実際、目にして、鉈のような力強さがある。細工は精にして、時には小気味良く彫ったその像は、木目の間の虚(うろ)のような小さな空隙すらも、人生が刻んだ皺のようでもあった。まるで、仕事の後、汗を流して衣服を改めて、陽の沈むのを眺めている父親のようである。天より降りてきた神でなく、大地に生くる人の匂いがする。

 アーティストは、外へと自分を主張するが、その内側は、伝統が織りなしてきた技法が支えている。
「細かい所を丁寧にしないといけないが、そこに拘りすぎると全体がおかしくなる」
 彼は事も無げに言う。工芸を基とする彼等は、伝統と人の用の中に、我というものを捨てて己を入れていく。しかし、内から、それを支えているのは、彼等の生き様なのである。

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なんというか、彼は、僕はすごいと思っています。彼の木彫は、迫力があります。機会がありましたら、直接みてもらいたいと思います。


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