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【画廊探訪 No.087】樹に宿る無数の命を寿(ことほ)いで ―――Art Gallery OPPO 成田淑恵展『アルガママの世界』に寄せて―――

樹に宿る無数の命を寿(ことほ)いで
―――Art Gallery OPPO 成田淑恵展『アルガママの世界』に寄せて―――
襾漫敏彦

樹木豊かな飛騨の山系から流れ出す清水は、流れとなって美濃の大地を潤した。岐阜というのは、政(まつりごと)に由来する名であるが、山と樹木と動物達は、大いなる自然となって人間の儚い営みを包んでいてくれた。

 動物達をモチーフとして描く成田淑恵氏は、油彩を中心とした洋画家である。彼女は、油絵具にとどまらず、筆、鉛筆、アクリル絵具、ミックスドメディアと、様々な技法を取りいれて、独特の質料感を含んだ色彩の粒子の塊を構築していく。それは固まった絵の具とは異なった新しい土塊(つちくれ)のようでもあり、それらを配することで個物が形づくる色の氾濫が成立していく。
 個々の多様な色の被造物は、四角い絵の中で生まれ落ちた所の運命(さだめ)に従って、己を失わぬまま、そこの風情を支えている。それは、あたかも折々の節季につれて、紅葉が、川魚が、雪融けに流れる氷が、川面を彩るようなものである。
 そして、それぞれの領域は、己を主張しあいながら、反発しては支えあっていく。あたかも、山脈と平原が、大地と河川が、ぶつかりあいながらも支えあって、生命を育み続けているのにも似ている。

 多彩な色彩を配しながら乾いた質感をもつ成田氏の洋画は、不思議な量感をもって、この国の伝統工芸を思い出させる。色でみれば、西陣の錦屏風のようでもあり、その乾きは、岩絵具や胡粉を思わせる。そして、表面の凹凸は、洞窟絵画や壁画、もしくは漆喰をつかった鏝絵のようでもある。とはいえ・・・。
 多くの色の粒が織りなすお喋りは、自然の中で生きる動物たちの生命(いのち)の連環を寿ぐために、ひとりの少女が大樹に吊るした吊るし雛、そう思って眺め聞くのがいいように思う。

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成田淑恵ホームページ
https://yoshie-narita.jimdo.com/

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