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【画廊探訪 No.143】現代をこれから照らす曙光を感じて――福田美菜・清水佳奈展『いまを刻む』福田美菜出品作品に寄せて―――

現代をこれから照らす曙光を感じて
――『いまを刻む』福田美菜・清水佳奈展(Gallery FACE to FACE)
 福田美菜出品作品に寄せて―――

             襾漫敏彦

 夜がまだ明けぬ頃、ふと目が覚める刻(とき)がある。布団の中でまどろみながら、闇の帳の中に、かすかに近づいてくる薄明の光が、漆黒をほどき始めるのを確かに感じる。それは、そういう刻でもある。

 福田美菜氏は、メゾチントの作家である。彼女は、メゾチントをベースにしながら、水彩や他の手法を組みあわせて作品を構成する。無機的な構造と有機的な存在を組み合わせた構成に展開するそれは、ミクストメディアというより色彩と濃淡の織りなす一種のコラージュであり、無の沈黙と、その帳を破って生まれ出ずる有の産声のコントラストを表現している。



 近代の夜明けは個人を発見する。まばゆいばかりの陽光の中、人は全てのものが見えるようになると信じた。その世界は、完全で全てのものを包みこむもの、欠陥のないものだと信じてもいた。それは、規則的であり、対称的であり、数学や論理で語り、幾何学的図形で表現できるものでもあった。
 けれども知性の中に求める世界を捉えようとすればするほど、個人は見失われ世界の中に埋没するようになった。美しい世界の中に人を置いたとき、その醜さから目を背けることができなくなる。神の桎梏をふりはらった結果、法則が冷たい予定説としてあらわれる。そして現代の闇夜がはじまる。

 光は天上から来るものであった。けれども闇に一度、包み込まれた後、自分のうちから生まれる光もあることに気づくものもあらわれる。きまりや関係性以前に私の魂と精神と肉体があるのだ。
 新しい時代は新しい表現を欲した。しかし現代美術と呼ばれるそれは既に古典ともいえる。福田の作品は一種の回帰的な古さを感じる。しかし、作品の魂は、はっきりと東から来る曙光を見すえている。

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福田さんも、ネットで探すといろいろみつかりますよ。

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