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ほんのしょうかい:荒木優太『サークル有害論』(集英社新書)〈『思想の科学研究会 年報 やまびこ』より〉

荒木優太『サークル有害論』(集英社新書)
 
荒木優太『サークル有害論』は、著者によれば、『すばる』2021年1月号に発表された「円を歪ませるものーー鶴見俊輔とサークルの思想」を大幅に加筆修正したものだそうである。
 
 
前号の「ほんのしょうかい」で、荒木優太『転んでもいい主義のあゆみ』(フイルム・アート社)を取り上げた。この本は、日本のプラグマティズムの受容が主題であるが、『共同研究「転向」』と思想の科学研究会の転向研究会を取り上げたものでもある。
 それに対して、『サークル有害論』は、『共同研究「集団」』と思想の科学研究会の「集団の会」を取り上げているともいえよう。
鶴見俊輔の言うところの「自我のくみかえ」(本書142p)について、個人に焦点を当てれば、<転向>が、そして<くみかえ>が起こる場所に焦点を置けば、<集団>が着目される。鶴見俊輔が<転向>と<集団>を対のものとして扱ったとしている荒木の視点は妥当であると思われる。
 
戦後のサークル=小集団の展開とそれに対する多くの識者の論の展開が核となっているこの本は、小集団が引き寄せてしまう、有害性を取り上げるところから始まる。それは、自覚的なものというよりも、知らず知らずにその人を蝕んでいく毒のようなものとして扱われている。その背景にある現代社会への考察から、多くの論者と対峙するような形で、サークルを論じている。
 
 この本で取り上げられているのは、鶴見俊輔を中心として、花田清輝、日高六郎、谷川雁等であるが、最後には、田辺元が取り上げられる。体にまとわりつくような小集団の持つホモソーシャルな求心力の有毒性と、そこから解脱しようとすることによる危うさを『種の論理』を弾きながら語っている。
 小集団の有害性の解毒につなげるまでに読みくだくには、難儀な本かもしれないが、興味深いものでもある。
 
 ちなみに、ここで取り上げられている「集団の会」は、『共同研究「集団」』の発表の後も五十年近く経った今日でも続いている。

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