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【画廊探訪 No.104】景色に漂う人の気配――養精堂画廊『日本版画協会第八二回版画展受賞者・画廊選抜展』中村美穂出品作品に寄せて――

景色に漂う人の気配
――養精堂画廊
『日本版画協会第八二回版画展受賞者・画廊選抜展』
中村美穂出品作品に寄せて――
襾漫敏彦
 我々を取り巻く世界は風景として現れる。作家は、それを切り出して〃画〃とする。枠を決め要素を編み直しひとつのものとする。世界は作家を通して再統一される。〃風景画〃に現れた統一の作用は、もっと大きな統一の力を背景にしている。風景への感動は、もっと大きな何かへの感動でもある。

 中村美穂氏は、風景を描く水性の木版画家である。淡くぼかすように色を置く手法で描かれる風景は、靄がかかったようである。雲の中にいるような視界は、建築物の輪郭をゆるめ存在の芳香を大気の中に蒸散させているようでもある。薄い帳(とばり)にさえぎられて、建築物に潜む統一の力をようやく感じ始める。

 都市の建築物は、人と対立するものとして、表現されることが多い。人工と自然、継続性と有限性、無機質と有機物、合理と感情、力と脆さ。近代は、進歩と共に人間を疎外するものとして捉えられがちである。
 けれども、建物の塗装、タイルの並び、木の選択、ネジの締め具合にに至るまで、拵えとはからいは、たずさわったひとりひとりのアルチザン達の感性と判断力によって成されたのである。個々の理解と表現、そして受け継がれてきた技術が作業の中に繰り返されている。いかに無機的に思われる建物でも、それは無数の人々の表現の集積体なのである。

 ものに魅入るとき、そこに人の思念の残像を感じる。姿、形を大気中の無数の精霊に映し出すことで箱の中に閉じこめられていたものが動き出す。彼女の風景画のそこにかくれているのは、ひとつにまとめあげる意志としての〃人〃の存在なのであろう。



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ハッキリしたサイトはありませんが、展覧会情報としてネットにはあがってます。

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