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【画廊探訪 No.049】傷は癒えつつ貴女をつくる ―――霧生まどか展『about you』 に寄せて―――

傷は癒えつつ貴女をつくる
―――霧生まどか展『about you』(Gallery Face to Face) に寄せて―――
                            襾漫敏彦
 日本画家の澁澤卿氏は、本江邦夫氏との対談(『月刊美術』2012年1月号)の中で、現代絵画から失われたものは〈宗教心〉と語っていた。様々な体験を痛みと共に受けとめ、時と人と作業の関わりの中で、さするように温め、それを新しい経験として表現の中に組み込む。無常がつくる悲しみという断層の跳躍、美術に流れ込む源流のひとつが湧き出る泉もあるのかもしれない。

 霧生まどか氏は、リトグラフを中心に活動する版画家である。彼女は外部と触れた感じを痛めつけない表現としてリトグラフを選んだ。石碑の表面をなぞるような手法は、日が暮れた後の居間で、灯(ともしび)を点けたときのようなぼんやりとした気配が表現される。その温もりの中から形をとって現れるのは、ガーゼ、包帯、リボン、絆創膏。それは語るとも語らない心の襞や痛みなのかもしれない。

 現代社会は待つことを知らない。答えや結果を要求する。段階や段取りは認めない。社会は神を後見人から追い出しておきながら、新しい神であるかのように裁きを行う。これでは、可能性や未来の小さな芽をつぶすことにしかならない。傷口を裂いて死に至らせるだけである。
 絆創膏や包帯は、記号としては、傷の存在を指し示す。けれども彼女は傷を表現しない。人の手を加えるものとしても考えない。傷は、痛みは、時をかけてゆっくりと自分の体のひとつになるものである。人はぬくもりの中で生まれ育まれて人になっていく。傷も痛みも待つことで私になる。長い作業の中で、ふと気がついて手を止める。その時、ようやく誰かが呼びつづけて待っていてくれたことに気づくのであろう。


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霧生さんのサイトです。




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