僻地ー牛誕生秘話 青延川脱出編 2/3


8/15
お盆だ
あのとき、俺のことを「左遷」呼ばわりした大学の同期が底辺ユーチューバーになっているのを見つけた
酒を吞みながら動画を全部見た
非生産的かつ低脳、バズる要素が見当たらない クリエイター適正のない彼には、段ボール工場で荷物を出し入れする仕事とか向いてそうだなと思った

8/18
先輩に倉庫に呼び出された
「ここに開けてしまった段ボールがあるから全部閉めて欲しい」
「わかりました」
「ごめんね、全部俺が開けちゃったからね」
(途中で気づかなかったのかな…)
「あ、そうですか」
蒸し暑い
段ボール工場で働いている人ってこんな気分なのか
あれ?
あれ…?

以下、段ボールさんと呼ぶ

8/23
上司と面談
他の部署の数年前の記録を見せられた
上司の名前と、当時起きたことが記されていた(機密すぎて書けない)
「私は昔過ちを犯して…ね…うん、岡森くんはこうならないでね」
「段ボールくんとは関わっちゃダメだよ、あの人はたらい回しにされて…」
「でも、年功序列だから大丈夫」
何が大丈夫なんだ?

8/25
上司の経歴を知ってかなり塞ぎ込んだが
昨日は有給取って休んで回復した
会社から干されてる人の下についたってだけで、学べることはたくさんある
どんな川でも必死に泳げば魚は成長できる
ポジティブシンキングが重要
社会人は言い訳しない
神様は乗り越えられない試練は与えない

…はずだ

8/26
お局から呼び出し
「一昨日のこれ間違えてない?」

「あっ…(顔面蒼白ライカ基山先輩)
スミマセン…アッ一昨日はいないので僕じゃないと思いますぅ…」
「そっか。じゃあ段ボール君ね。はぁ…😩」
(なお、その通りだった)
そして、この件を見ていたのに俺は2ヶ月後に全く同じミスをする

8/31
基山先輩と飲みに行った 1日のうち、2人とも一度も笑わなかった 先輩は言った 「1年と5ヶ月経った、だいたい1年半経った、前半戦が終わったようなものだし、前半より後半の方が短く感じるからもう終盤戦みたいなもの、あと少し頑張ろう」 「辛い時は頑張れる理由だけを書き起こすといいよ」
先輩の理論でいくと、36ヶ月のうち17ヶ月目の月末ははもう終盤戦らしい。180手で終わる将棋は85手目から終盤戦だもんな。なるほどな。
先輩は天才だ。
スーパーポジティブシンキング!
そう考えると、俺はあと1年で終盤戦に差し掛かる。
3年は四捨五入すれば0年
神様は乗り越えられない試練は与えない!!

9/3
仕事を辞めない理由を書き出してみた
9月 9/1と9/2がもう存在しないから帰納法的に考えて(?)9月は存在しないからヨシ!
10月 祝日があるからヨシ!
11月リフレッシュ休暇があるからヨシ!
12月 年末あるから辞めないヨシ!
1月 年始ヨシ!
2月短いヨシ!
3月なんかヨシ!

9/5
神様は乗り越えられない試練は与えない
俺はこの思考を応用することにした
神様は乗り越えられない試練は与えない
俺が底辺ユーチューバーに勝ってる部分のみ列挙
神様は乗り越えられない試練は与えない
年収、福利厚生、家賃手当、社格、ベネフィットステーション、貯金
神様は乗り越えられない試練は与えない

9/25
1000kmの左遷の後、
さらに1m左遷された。デスクの配置は

    課長
プリンター プリンター
段ボール先輩    お局様(現地社員)
現地社員    現地社員
現地社員    現地社員
現地社員    現地社員
プリンター      空席

だった

通常ならお局の場所に正社員を置き、お局を下座に動かす
しかし、それではお局がプリンターに遠くなる
そうするとお局の不満が爆発し、部署が崩壊すると考え、
課長は私をお局より下座にした
すぐ部長が水を差し、部長課長間の討論(9/30までずっと)の末、俺が遠慮したことになった
めでたしめでたし^_^

課長は50代、年収800万円近くあり、妻子と、青延市内にマイホームを持っている
一度不祥事を起こしたとはいえ(青延基準なら)高給取りのプライドもある
お局に媚び諂い、プライドを捨てて妻や娘を守るのが彼の矜持なんだろう、立派じゃないか。

1000kmの左遷より1mの左遷が辛いなんて

10/2
アシちゃんの墓場(会議室)で上司と面談。
主担当の仕事2つと、今後半年間の流れを整理。
1つ目はアレに関する仕事
2つ目はアレをアレする仕事(機密)
昔上司がいた場所でアレを担当した下請けのアレがアレして外に漏れて、上司は干されたらしい(機密)

俺は身震いした

10/15
14時
遅めの昼休憩を取りながら、××町を眺めて心を癒していた。
戻ってくると異動したはずの鎌倉武士さんから電話があったらしい
折り返しをした
鎌倉武士さんは名乗った「お疲れ様です、〇〇支店の〇〇です」
内容は業務のことじゃなかった

3個上の先輩は俺と同じ部署に配属され7日で辞めたこと
〇〇さんと〇〇さんは仲が悪い
〇〇さんはすぐ陰口を言う
〇〇さんはマイルールが多くて
〇〇さんは絶対に加湿器の口を自分の方に向けて欲しい

気をつけて

俺の身を案じた内容と応援メッセージだった

そして俺は気付いた
先輩の電話の時の名乗りが短い

勝手な推測だが、
鎌倉武士先輩はこの部署の陰湿さを嫌い

先輩は(自分が誇りを持っている)
社名をいつも自分に言い聞かせることで会社への帰属意識を保ち
毎日浴びせられる“言葉のてつはう”に耐えて正気を保ち、
神風(異動)を待っていたんだ

あっぱれ

10/17
僕らは神風(異動)を待つことにした
なぜなら、神様は乗り越えられない試練は与えないからだ

3個上の先輩は7日で辞めた
(以下、蝉リタイア先輩)
2個上の猫先輩はパワハラで鬱になって壊れて辞めた

でも、俺と基山先輩は違う
俺達には神様がついている

真顔でそんな話をした

10/19
鎌倉武士さんが神風に吹かれてから、
基山先輩の部署の雰囲気が暗い。
1人あたりの仕事量も増えた
血色が悪すぎて白かった肌がもはや透明だ
今にも消えてしまいそう
その課の窓側社員Aは涼しい顔でマニュアルを読んでる
大丈夫、基山先輩の苦しみも神様は見てくれるから
窓際社員は地獄に行くから

10/31
俺は更なる失態を犯した
人事面談にて
再び会議室(アシ墓場)が見せ物小屋になり、
人事部長から質問が来た
「次の勤務地の希望はありますか?」

脊髄反射で叫んでしまった

「😳TOKYO😳!!!!!!」

下の階や隣の部屋にも聞こえていたと思う
人事はびっくりしてた
そりゃそうか
11/1
基山先輩に人事面談の結果がどうだったか聞いた
「来年もここにいそう、なんなら再来年も…」らしい
うちの部署は若手が不足している
(なぜなら、2個上や3個上は神様が与えてくださった試練を乗り越えられなかったからだ、たぶん地獄に堕ちた)

だから
この部署は若手を手放したくないようだ
11/3
最近、基山先輩と話してないな
平日は忙しくて、休日は10時間以上寝てしまうから会う時間もない

ちょっと仕事が多すぎる
先月、俺と同じ業務をやっている誰かがミスをしたので、例の業務ではもう絶対に失敗できない
短期間に同じ不祥事を二度起こすと、ニュースでは済まないそう
もういっそ青延川に沈めてくれ

11/20
有給と勤労感謝の日を使った4連休
政令指定都市を経由して地元に戻る
混んでたけど座れた

妊婦の方が来たので席を譲り、自分が吊り革につかまる
頭を下げて、「ありがとうございます」と言われた
急にに妊婦の腹を殴りたくなったので、電車を降りた

政令市に生まれる赤ちゃんに嫉妬していたからだろうか

11/21
地元の高校同期と会った
彼女と結婚を考えてるらしい
彼女の母親は「女なのに専業主婦にしてもらえないなんて可哀想」と言って反対してるらしい

相変わらずさびれた町だ

昨日まで妊婦を殴ろうとしてた男は
「いろんな価値観の人がいるよね〜」とはぐらかした

11/24
地獄に戻った 基山先輩から昨年の話を聞いた 昨年辞めたのは1個上の先輩だけではなかった。40歳くらいの先輩がいた 会社によって“死の部署をたらい回し”にされた挙句、最終的に青延市に辿り着き、休職後に“退職者名簿”に載った

The company put him on the death roll by the death roll

※登場人物紹介

21年4月入社 岡森 主人公 最近の趣味は青延川に身を投げる妄想
20年4月入社 基山先輩 肌が白い
19年4月入社 猫先輩 鬱で半年退職
18年4月入社 蝉リタイア先輩 7日で退社

鎌倉武士さん 秋に異動。青延の地獄を数年間耐えた
段ボールさん 岡森の課の先輩 いつも陰口を言われている
窓際社員A 基山先輩と鎌倉武士先輩と同じ課のひと

底辺ユーチューバーをやっている大学の同期 あほ



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