僻地ー牛誕生秘話 青延川脱出編 1/3

2021/3/30
そうだ、twitterは消そう。卒業式後の飲み会でそう決めた。
あの時ユーチューバー君に言われた「左遷」という言葉が頭から離れない。そりゃあ実質無職に左遷はないだろうよ。
残りの就職する2人は都内勤務。この部活用アカウントを見るのは俺にとって毒になるじゃないだろうか、さよならツイッタランド。

4/1
俺の名前は岡森 入中(おかもり いなか)。
某県の青延(あおのべ)市配属に配属された新社会人だ。
今日は会議室でオンライン入社式がある。独りで4時間。
画面に映っているのは本社配属の同期達だ。表示名の「青延市配属 岡森」を見て「どこだよ、それ…」とでも思っているのかな。
俺は見せ物古屋の猿じゃないぞ。
会議室の灰色の壁には一人ぼっちのアシダカグモ(青延サイズ)が這い回っていた。


4/1 正午
部長の部屋に呼ばれて挨拶。
「自分は隣県出身のよそ者」
「東京からの新人は今まで聞いたことがない」
「ここはベテラン揃い」(1個上の先輩の次に年が近いのは38歳)
「君はまじめそうだからここに配属されたのだと思う。大変だけど頑張ってほしい」
特殊な場所だなぁと感じた

4/1 午後 
一個上の先輩に挨拶。
第一印象は、
「某超次元サッカーアニメの基山ヒ〇ト選手(イナズ〇イレブン)みたいな肌の色をしているな」と「真面目そう」って感じだった
(以下、1個上の先輩→基山先輩と呼ぶ)

一度配属されたら3年は青延支店に居るはずだから、2年前に配属された先輩がこの場に居ないのはなんでなんだろうかと思ったが、聞かなかった。聞けなかった。

4/5
青延人生で5指に入る失言だ
先輩「この近くの会社名を“会社に近い順”に並べているから、電話受けたらすぐに出せるようにしてね」
自分「えぅっ!えっ!あっ…」
周囲の空気が重くなった
郷に入って郷に従わない新人と思われた
(五十音順にしておいたほうが新人にはわかりやすいと思うのだが、言えなかった)

後から基山先輩に聞いたら「青延ルール」らしい
これが社会の理不尽か…

4/7
見せ物小屋に独りで8時間の本格的な研修
人事部長だ
「私はこの研修で隣に座っていた同期と社内結婚して…(中略)皆さんも将来の結婚相手が隣にいるかも知れませんね!」とのたまう
同期がみんな笑っていた面白いジョーク🤣❗️

帰って“蜘蛛ですがなにか”でも読んで寝よう
アシちゃん(青延サイズ)が壁を這いまわる

4/21
研修期間終了、同期の顔はしばらく見ないで済みそう
幸せだ
地元の公立中学校みたいな和式便所の掃除と、
地元の弁当屋さんにみんなの昼ご飯を注文(徒歩圏内に飲食店皆無)
本社配属の同期には経験できない貴重な仕事だ

神様は乗り越えられない試練は与えない
神様は乗り越えられない試練は与えない
神様は乗り越えられない試練は与えない

4/26
2度目の失言
現地型雇用の社員から
「GWどこ行くの?」と聞かれ「東京に戻るつもりです」と言ってしまった
夕方に上司から「ほんとにGWは東京行くの?」と聞かれた。
やってしまった。
1日1人コロナ陽性者が出るかの町に住む人にとっては、コロナは未知のはず

黙っていればよかった
神様は乗り越えられない試練は与えない

4/29〜5/5
GWは記憶がない
最終日、東シナ海に沈む夕日を見ながら「今この川に飛び込んだら、海まで流されてそのまま東京に戻れないかな」と考えていた
無人島に漂着した人は、正気を保つために日数を数えるものだ
普通はカップルが使うらしい記念日アプリをインストールした

4桁の数字が表示された
神様は乗り越えられない試練は与えない

5/14
基山先輩と飲み
「自分の1個上の先輩は現地雇用の社員に“キツいこと”を言われ退職代行使って入社半年で辞めた」
基山先輩のこの発言を聞いて背筋が凍った
「だから、去年は若手一人で頑張っていた」

配属された新人は3年間青延なのに基山先輩の2個上は何故居なかったんだろ…
まさかその人も短期離職なんてことはないだろうな、でも
神様は乗り越えられない試練は与えない


6/1~6/30
神様は乗り越えられない試練は与えない
神様は乗り越えられない試練は与えない
神様は乗り越えられない試練は与えない
神様は乗り越えられない試練は与えない
神様は乗り越えられない試練は与えない
とても書けないのでご想像にお任せください
そういえば、人間の瞼ってストレスで痙攣するんですよね(^^♪)

7/17
だいぶこの環境にも慣れてきた
基山先輩の教育係は凄く仕事ができると評判だ
俺のその方の第一印象は「名乗りが長いな」だった
電話に出る時「社名+「某県青延」+部署名+苗字(これも長い)」で名乗るので、
元と戦った時の九州の鎌倉武士かと思った
以下、「鎌倉武士さん」と呼ぶ

8/1
研修期間を終えて、本配属
課の資料室に案内された
窓から川の向こうが見えたので
俺は“何も考えずに”「あっちに見える××町、景色が綺麗ですね」と言った

8/2
同じ課に配属された同期と
3日間のオンライン研修が始まった
最初に各々の勤務地の自慢を言うことに
「青延川という立派な河川があり、その向こうには昔ながらの集落(××町)が見える」と言った
画面に映る同期にはオフィスの窓から“すかいつりぃ”が見えるらしい
別に似たようなもんだろ

東京には東京の良さが、青延には青延の良さがあるんだから

8/3
気づいた
今年の夏は、少年の頃「また出会えるのを信じて」いた10年後の8月だった
まだ純粋だったあの頃、周りにいた人間は大きな希望を忘れてないだろうか
俺は忘れたよ

「手紙書くよ、電話もするよ」
アナログな時代の歌詞が響く

悲しくって、寂しくって、切なくて
星が流れた

10年後の夏、僕は僻地にいたよ

8/4
最近の課内はギスギスしている
正社員が3人。現地社員が6人。そこに新卒が1人in
「〇〇さんには注意してね、仕事押し付けてくるから」とかいう助言に見せかけた悪口をもう5回は聞いた
“青延名物”の陰口だ
頑張らなきゃ
だって
神様は乗り越えられない試練は与えない

会議室で研修(独り)

先週までいたアシちゃんがいない
なぜだろうと思って部屋を探し回った「あっれれー、おっかしいぞー⤴︎」
部屋の隅の籠にはアース製薬クモの巣スプレーが2つ置かれていたはずなのに1つになっている
「あっ…」
これは間違いなく他殺だ
犯人はこの部署の中にいる😤!!!!

8/9
昨日、俺はこの会議室で愛する者を失った。
「下半期に向けて業務の効率化」の会議
書類を謎のローカルルールでなく五十音順で管理すれば良いのではなかろうか…

会議の最後に上司がお局様の意見を伺う
何も決まらないまま会議が終わったので、自分の仕事のために席に戻った

8/12
昔の新入社員紹介の資料を見たら、基山先輩より前に配属された方の行方がわかるのではないかと思いフォルダを漁ることにした
3個上の先輩の自己紹介(本来4月に書くもの)は存在しなかった
それすら存在しないということはそんな先輩なんていなかったはずだ
まさか、4月に辞めるわけないしな

次は、2個上の先輩の社員紹介を見ることにした。
2個上の先輩は「猫」を飼っていたらしい (以下、「2個上の先輩」→「猫先輩」とする)
「鬱病なのになぜ休職せずに即退職したの?」って聞いたけどパワポは返事しない
米国で、“猫を電子レンジで温める事件”があった
内側から温められた猫は目玉や臓物が吹き出す直前まで、身体が死にかけていることに気づけなかっただろう

「先輩みたいだね」^_^

8/15
現状を整理した
地方配属、新卒1年目左遷、スラムにダンク、僻地幽閉、無罪なのに流罪の冤罪、令和の宇喜多秀家、会社の汚れ役、田舎配属、秒速1000キロメートル、リアルぶっ飛びカード、僻地配属、島流し、勤務地ガチャ逆SSR、人事のきまぐれ、同期0人、田舎者、推定流罪  病んだ

登場人物紹介
岡森 入中(おかもり いなか)
主人公。地方出身、2021年3月に東京の私立大学を卒業し、僻地に配属された新社会人

アシちゃん (あしだか ぐも)
会議室に住み着いていた蜘蛛。何者かによって殺された

基山先輩(きやま せんぱい)
1歳年上の先輩 肌が白い。頑張り屋

鎌倉武士 さん(かまくらぶし さん)
去年まで基山先輩の教育係だった中堅社員。めちゃくちゃ仕事ができる。
電話を受けるとき、だれに対しても社名、勤務地、部署名、苗字まで全部読み上げる。青延に移動してもう4年目らしい

猫先輩 (ねこ せんぱい) 
2個上の先輩 社員紹介に写真では目が死んでいた。
パワハラにより入社半年で鬱になり退職した

3個上の先輩(?)
そもそも存在するのだろうか…?すべてが謎


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