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孤独が生み出す短編Story集| Mr.Children miss you

ドゥルル、ドゥルル、ドゥルル、ドゥルル

激しくどこか寂しげなアコースティックギターのイントロから52分のストーリーは始まる。

これまでの彼らのアルバムと何かが違う、そう感じたのはきっと私だけではないはずだ。印象的な”闇深さ”をどこか含んだジャケット写真。そのイメージをそのまま映し出すかのような序章曲「I miss you」。視聴開始10秒で、私の心は、このダークな世界に一気に引き摺り込まれていった_。

今回はいったい何がしたいんだ。

そんな感情が心を横切る。

何かが違う。今までのMr.Childrenとは。


今回のアルバムのコンセプトがどこにあるのか、私にはわからない。だけれども、強烈に感じたのは、「miss youあなたがいなくて、さみしい」という言葉に象徴される「独り」に付随した感情だ。「I miss you」、「ケモノミチ」といったリードトラックに代表されるストレートな「孤独独り」もあれば、「雨の日のパレード」「黄昏と積み木」といった、一見は明るく聞こえる曲の中にも、どこか独りの孤独な妄想といった要素が含まれている。

それぞれの楽曲に登場する主人公が持つ孤独な想いや妄想。それらをリアルに映し出した歌詞、ボーカル桜井和寿のStory telling語り。それらが見事なまでの小説を作り出しているように感じるのだ。


人は誰だって孤独。

この核家族化が進んだ社会において、それをより強く感じる人が増えているのは、恐らく事実だろう。たとえ他者ヒトと生活を共にしていても、仕事をしていても、私たちの中にはどこか孤独が存在する。兄弟・双子であっても、同じ人生を歩む人間など誰ひとりいないのだ。

うまり、孤独こそが私たちのデフォルト、自然体、そして人間社会が多様性を保つ源泉なのだ。どんなに激しく怒りや悲しみに満ち溢れたものであっても。また、嬉しさや幸せに満ち溢れたものであっても。すべてはあるがままに生じる嘘偽りない自由な感情なのである。

何が嬉しくって こんなん繰り返してる?
誰に聴いて欲しくて こんな歌 歌ってる?

収録曲「I miss you」の歌詞より引用

このStoryは、いったいどんなイメージの中で作られたのだろうか?
そんなことを考えてみた。

何度も聴いていくうちに、こんなイメージが私の頭の中に浮かび上がった。

場所は、東京都世田谷区。
東急東横線各駅停車が止まるような清楚なレジデンスタウン。

駅前にはちょっとおしゃれなレストランやバーが立ち並ぶ。雑誌「大人の週末」に出てきそうな小洒落た店だ。

近くには街にどこか心の安らぎを与える多摩川の河川敷が通る。犬を連れて散歩をする老人。河川敷の公園で野球やサッカーをする少年たち。みているだけで満ち足りた気分になる。

駅前の通りはいろんな人が行き交う。沿線にある高校や大学に通う学生。都心で働くサラリーマン。大学生カップルに新婚夫婦。

こんな一見満ち足りたように見える街にも、モヤモヤとした心、今を生き抜くことへの辛さ、どこか他人への憤り、といったものは存在する。いわゆるネガティブな感情だ。

掴んだ光さえ 歪んで闇に消えてった
取り返せもしないで また今日も立ち尽くしている

収録曲「LOST」の歌詞より引用

曲によって主人公となる登場人物のキャラクターは大きく変わる。世代交代に直面する50代のサラリーマン。夢の結婚生活を思い描いていた専業主婦。仕事にどこかもどかしさを抱える家庭を支える中年男性。前半はどこか"闇"を抱えた登場人物が多い。

一方で、Storyは後半に向かうにつれ、少しずつ現れる登場人物の様子も変わっていく。

裕福ではないが、愛するパートナーとの小さな幸せを噛み締める男性。最近同棲を始めた初々しいカップル。幸せの規模は小さいながらも、それを最大限に楽しむ人々。そんな様子が脳裏いっぱいに広がるのだ。

欲張らないでいれば 人生は意外と楽しい
まして君と2人なら 2倍以上の価値がある

収録曲「黄昏と積み木」の歌詞より引用

いずれのStoryにも、すべてに満ち足りた主人公は登場しない。登場するのは、いずれもどこか日常によくありそうな、想像のつくシチュエーションばかりだ。

でも、なぜこんな日常にありそうな場面ばかりを、桜井和寿は歌詞の中で描きたかったのだろうか?

人はみな孤独でありつつも、日常の見方次第で、実はいつでも幸せで満ちた状態である。こんなことが伝えたかったからではないだろうか?とふと感じた。


このアルバムは、「おはよう」という楽曲でエンディングを迎える。

おはよう
目が覚めるとまだ君は そこにいて
おはよう おはよう
おはよう おはよう
きっと今日はいい日だ

収録曲「おはよう」の歌詞より引用

もしアルバムを聴く機会があれば、この曲だけでも、桜井和寿の語りStory tellingを聴いてほしい。歌詞だけでは表現できない真の優しさが声に込められている。

歌い方だけでこんなにも楽曲にpositiveのオーラを詰め込むことができるのかと、そう驚かされるほどの計り知れないパワーを感じた。

不思議なものだ。このアルバムの最後の曲が示すように、人々は皆、ハッピーエンドを目指して生活しているようにも思う。だが、歳を重ねるごとに、生活のため、家族のため、子供のため、と時間や体力・気力をすり減らし、次第と追い込まれていくようになる。

そんな毎日において、忘れてはいけないこと、そうそれは、何もなくたって私たちはただ生きているだけで、周りの人を大切に思うだけで、本当は幸せなのだということ。

つまり、私たちはもうとっくにハッピーエンドに辿り着いた自分たちのStoryを生きているのだ。

「おはよう」。
この楽曲の意味するところは何か?

それは、毎日訪れる家族や同僚への「おはよう」の瞬間に、私たちは幸せの扉を開いている。ということではないだろうか?

そこに実は私たちが見落としているすべての幸せがある。そんなふうに気付かされたのだ。

ありがとう、Mr.Children。

今回も本当に素敵な、最高のアルバムでした。

来年1月の国際フォーラムで「おはよう」が聴けるのを楽しみにしています。

★★★★★

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