自然からいただく命と色で紡ぎだす草木染の智慧
2022年2月19日、「丹後の智慧と紡ぎ手に出会うオンラインツアーVol.6~自然からいただく命と色で紡ぎだす草木染の智慧~」が開催されました。
第6回目は、丹後に咲く植物を使って草木染めをした繭から直接糸を紡ぐ「ずり出し」技法にこだわり、「繭先染ずり出し紬」という手織物を手掛ける佐橘 登喜蔵 氏を講師にお迎えし、自然から紡ぎ出される多彩な色や命の恵み、草木染やずり出しの智慧について語っていただきました。
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【講師】
佐橘 登喜蔵(Tokizo Sakitsu)
工房「登喜蔵」
丹後に咲く植物を使って草木染めをした繭から直接糸を紡ぐ「ずり出し」技法にこだわり、「繭先染ずり出し紬」という手織物を手掛ける。
繭から紡いだ糸は、どうしても太さがまちまちになり、織り上げるのに時間がかかり、難しいとされるが、登喜蔵氏は手間を惜しむことなく、その独特の風合いを活かして、丹後の豊かな自然を感じられる織物を生み出し続けている。
登喜蔵の草木染
登喜蔵さんが手掛ける草木染には丹後に自生する身近な植物が使用されています。
初めは丹後地域以外の植物を使用されたこともあったそうですが、その瞬間にしか出せないその土地ならではの自然の色に魅了されたことが丹後の植物のみで草木染を始められたきっかけだったそうです。
なので、登喜蔵さんの草木染には全く同じ色は1つとして存在せず、その年、その季節ごとの色の違いを楽しむことができます。
また、水は山からの湧水を使用されています。水道水と天然水では染め上がりの色が明らかに違うといいます。
登喜蔵さん:何かを自分で加えるのではなく、季節によって自然からいただける色をそのまま使う、そうしないと自然を冒涜しているような気がするんです。
①藤の若葉 ②山桜の木 ③桜の木 ④桑 ⑤フジバカマ(数が減っている希少な植物、工房の庭で栽培している) ⑥椿の花びら ⑦桜の木+スオウ ⑧椿の花びら+スオウ ⑨ヤマモモの木 ⑩梅
登喜蔵さん:大体これくらいの色で染めています。
やはり自然からいただける色にはあたたかみがあり、穏やかです。
ずり出し紡
登喜蔵では「ずり出し」と呼ばれる古来の紡ぎの技法を用いています。現在日本全国でずり出しを行っている職人は、登喜蔵さんの知る限りなんと登喜蔵さん含め3人のみだそう。
これは1粒ずつ水で湿らせておいた繭から糸を引っ張り出していくというもので、作業としては単調ですが、繭に逆らうと糸が切れてしまうため、繭に沿って引き出していくのが難しいそう。
このずり出しは現在奥様が全て担当されており、夫婦二人三脚で作品作りに励まれています。
登喜蔵さん:2人いてやっと作品が作れる。どちらかが欠ければ、今の登喜蔵のものづくりはできない。
手機織り 自然の恵みを纏う心地良さ
オンラインツアー中に手機織りの実演も見せていただきました
ずり出しの糸は普通の織機で織ることができないため、登喜蔵さんは全て手織りで生地を織られています。
また、手織りだと柔らかい織物を織ることができるそうです。
登喜蔵さん:実際に纏っていただいた時にフワッと身体に馴染み、ほっこりしていただける着物を織りたい
お客様からの「気持ちよく着ています」という言葉が一番嬉しいです。
草木染を始められたきっかけ
もともとは丹後ちりめんを織られていたそうですが、「藤布」という丹後にのみ残っている藤の蔓を使った織物をされていた方に出逢ったことをきっかけに、ご自身も藤布を始めることに。また「この藤の帯に負けない着物を作りたい」という想いから、草木染も始めることにされたそうです。
その後ずり出し技紡に出逢い、「誰もこの手法をやっていないのならやってみよう」と思った登喜蔵さん。やってみると糸の表情が面白くこれなら存在感のある着物ができると確信されたそう。
このように丹後ちりめんを辞めてまで、新たなことにチャレンジされる登喜蔵さんを全力で協力し、一番の理解者である奥様は改めて素敵だなあとお話を聞いていて実感しました。
作品
オンラインツアーでは実際に登喜蔵さんの作品も見せていただきました。
ご自身が着物と合わせて履きたい草履を作ろうというところからこの商品作りがスタートしたそう。
また、この鼻緒は着物の生地を一反織り終わった時に少し残る端切れから作られており、そこには登喜蔵さんの蚕の命をいただいて作った生地をなるべく無駄にしたくないという強い想いがあります。
ここで参加者の皆さんへ登喜蔵さんからクイズがありました。
「1日約6時間の作業時間で手機の織物を1日何センチずつくらい織ることができるか?」
⇒正解は50センチ!!
着物をもっと身近な存在へ
登喜蔵さんは、着物=敷居が高いイメージを持つ方が多いのはフォーマルな場面以外で着物を着なくなったことが原因だと考えます。
登喜蔵さん:着物を着ていく場面がないという声をよく聞きますが、例えば午後から何も予定がない日に着物を着てお茶を飲むというだけでもお勧めです。
着物を着ると背筋が伸びる一方で、ほっこりもする。着物を着ることで、日本にはゆったり流れる時間の中で生まれる文化があったということを感じることができます。
最近は洗濯機で洗濯ができる木綿製のものが流行し始めていることもあり、少しずつ着物を気軽に着る方も増えているそうです。
「着物を着ると女性は数倍綺麗に、男性は数倍かっこよく見えますよ」という登喜蔵さんがおっしゃっていたのを聞き、私も今後着物をもっと頻繁に着ていけるといいなと思いました(笑)
また登喜蔵さんはSNSでユニークな着こなしをされているインフルエンサーや様々な着物などをこまめにチェックされているそう。
登喜蔵さん:既存の作法や伝統に捕らわれず、次世代に繋いでいけるように、柔軟に“着物”を捉えています。
作品作りで大切にされていること
最後に登喜蔵さんが作品を作る上で大切にされていることをお聞きしました。
登喜蔵さん:お蚕さんの命をただいて作っている繭なので、できるだけ有効に活かす、無駄にしない!
どのように形を変えて皆さんに喜んでいただける作品を作れるかということを大事にしています。また、私は年齢的にも引退が近付いていますが、同じように丹後で頑張っている職人さんと共に、丹後の魅力や良さをアピールするお手伝いが出来ればと思っています。
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登喜蔵さんの織物は自然のあたたかみを感じ、見ているだけでほっこりします。そこからは登喜蔵さんご夫婦の自然に対する敬意や、作品を通して忘れられつつある日本の文化を紡ぎたいという想いが伝わってくるように感じます。
★アーカイブ動画はこちら
\「登喜蔵」HPはこちらをご覧ください/
\Tangonianウェブサイトはこちらをご覧ください/
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