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#39 相い和する。 簡単なことじゃない。

三寒四温と言うが、ようやく昼間は晴れる日も出てきたな。
この週末なんか、けっこう客出てたな。

もうそろそろ梅の季節だな。
令和って元号のもとになった万葉集の「梅花の歌三十二首の序文」。
令和になってもう4年になるのかー。

■ 初春の令月にして、気淑(よ)く風和(やわら)ぐ。梅は鏡前の粉を披(ひら)く、蘭は珮後(はいご)の香(こう)を薫(くゆら・かおら)す。

初春って言ったって、あの頃は暦が違うからな。
梅の頃が初春。
令月って、今の2月ごろのこと。

初春のよき月、空気は清く澄みわたり、風はやわらかくそよいでいる。梅は美人さんが鏡の前でお化粧する白粉のように美しく咲いている、蘭は貴人の飾り袋の香にように匂っている、って「梅」の様子をこう表現したわけだ。

 
で、「梅花の歌三十二首の序文」ってことだろ。
この一節は、そのあとに続く「三十二首」の和歌の前に書かれた前書きなんだ。

■ 天を蓋(きぬがさ)にし地(つち)を坐(しきゐ)にし、膝を促(ちかづ)け觴(さかずき)を飛ばす。言(こと)を一室の裏(うち)に忘れ、衿(えり)を煙霞(えんか)の外に開く。淡然自ら放(ゆる)し、快然自ら足る。もし翰苑(かんゑん)にあらずは、何をもちてか情を述べむ。詩に落梅の篇(へん)を紀(しる)す、古今それ何ぞ異ならむ。よろしく園梅を賦(ふ)して、いささかに短詠を成すべし。

・・まあ、簡単に言えば、青空の下、地面に腰を下ろして、仲間と膝を交えてお酒を酌み交わしてるんだ。
そして、大陸の人がやったように梅の花の中で「短詠を成すべし」、五七五七七の和歌を詠もうって言ってるんだ。


「膝を促(ちかづ)け觴(さかずき)を飛ばす」
要は飲み会さ(笑)
酒飲みながら、和歌を作ろうってやってる。
で、「梅花の歌三十二首」作ったよって、前書きを書いたんだ。

この一節を「令和」ってしたのは、これはこのたび元号を考えた人の工夫だろうな。


「和」って、原文では、風の様子を言っているだろ。
でも、「令和」は、そのあとの、「膝を促(ちかづ)け觴(さかずき)を飛ばす」っていう、和やかな様子に結び付けて解釈されたんだ。

英語ではこう訳された。

■ ビューティフル・ハーモニー

人間、それぞれが違うから、だからこそ一緒に何かを創り出せるんだっていう解釈をして、「令和」ってしたんだろう。


あ、ちなみに、このお酒を飲んで創作するっていうシチュエーションには、元ネタがある。

万葉集が700年代にできたんだが、300年代に、大陸では「蘭亭序(らんていのじょ)」っていう序文が書かれたんだ。

蘭亭って場所で、漢詩を作る仲間で集まり、小さな川の流れにお酒を入れた盃を流し、それが流れてきたら、多分、それ飲んだんだろうな、飲んで漢詩を1つ詠うっていう(笑)そういう遊び?ゲーム?したわけさ。

蘭亭序って、その漢詩の詩集の序文なんよ。
ああ、これって王義之(おうぎし)って人が書いて、この行書の字が、日本では行書の書き方の基本になってるんだ。

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・・それはそれとして。
古代日本人は、当然、大陸から蘭亭序の存在を知っていただろう。
そのシチュエーションをまねたんだ。

でも、まったく同じじゃないところが、日本らしい。

川に盃流さないんだ(笑)

「膝を促(ちかづ)け觴(さかずき)を飛ばす」
・・気取ってないだろ?
体を寄せ合い、相手の息のかかる距離で、歌を作るのを楽しんでる。

息のかかる距離!それを「和」という(笑)
もう、ザ・日本ってわけさ。


・・
万葉集って、奈良時代の終わりに成立しただろ。
まとめたらしい大伴家持は、その後、都が変わり平安時代になって創作をやめた。

大陸から学ぶのをやめ、日本らしい国をスタートさせたのが平安時代。
そこに行きつくまで、飛鳥、奈良の時代は、ちゃんと見ると、もう殺し殺されの時代でもあった。
神武東征があり、日本の歴史が始まったが、仁徳さんのような徳治ができたときもあれば、大化の改新の前の乙巳の変のような殺し合いもあった。
飛鳥に都を築いても疫病という社会問題が起き、人心の乱れに時の帝、天皇は煩悶した。
それでも、奈良に都を築いた。

そして、時代は、都を移し、平安の時代になろうとしている。

オレは、自分なりに想像するんだよ。

大伴家持は、飛鳥、奈良の時代の記念アルバムを作ろうと思ったんだと思う。

「籠もよ み籠持ち」の天皇のナンパの歌で始まる、ポップで破天荒な雄略天皇の歌から始まり、恋や四季の歌、それに都だけでない、東国の人々や大陸に対する守りをする防人などいろんな人が生きていて、そんな時代が終わって、律令でまとまった新しい時代になるんだ。

そんな時代のエピローグで、自分が歌った歌が

■ 新しき年の初めの初春の今日降る雪のいや重け吉事

新年に降る雪が美しく重なるように、あなたにも良いことが積み重なっていくといいですねって終わる。

万葉集って、そんな、日本人のつらい歴史を美しく昇華させる歌集なんだと思う。

この国のみんなが、相い和してやってきたんだよなって思える歌集。

令和って元号は、そう考えてくると、新しい時代に、これまでの混とんとした時間を昇華して、日本人にとっての「和」を考えさせる元号なんだと思うな。


人間って、生きていく中で決してきれいには生きられない。
失敗もあり、後悔もある。

そのことをちゃんと引き受けたうえで、それにこだわらず、昇華させることが大事なんだろう。

■ 古いアルバムめくり 「ありがとう」ってつぶやいた。
  いつもいつも胸の中 励ましてくれる人よ

  晴れわたる日も雨の日も
  浮かぶあの笑顔 思い出遠くあせても
  おもかげ探してよみがえる日は涙そうそう


人々が、相い和する。
それは簡単なことじゃない。
振り返ると涙の流れるような努力が必要なんだろうな。

ん?
ウクライナの話?
まあ、もう今夜はしゃべりすぎたから、このぐらいにしておこう。

お前が明日、自分の仕事を、人生を頑張るんだったら、今世界の誰かが苦しんでいることに罪悪感を感じなくてもいい。
できることがあるんならすればいいけど、まずはやるべき人がやるべきをことをすべきであって、いちいち全部自分が何かをできると思う方が間違ってる。

むしろ、今の日本をどうするかを考える方が誠実なんだと思うよ。
そんなふうに飲む酒はどうだ?

ふふ。
いい目してるじゃんか。
そんな酒だってあるんだぞ。

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