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「今日こどもたちと喋ったよ」

今は高校生の私の息子は幼い頃とてもシャイで引っ込み思案だった。シャイになる対象は子供限定だ。大人にはすぐ懐くのに、他の子達が近づくとさーっとその場を退いてしまう。公園では他の子供達が遊んでいる付近に近寄れない。遊ばないのかと聞くと「だってこどもたちがいるから...」。自分だって子供なのにね。

プリスクール時代は先生方から「彼はなかなかお友達たちと喋らず、話かけれらると下を向いて黙ったまま」と言われ続けた。帰りがけに他の子達から声をかけられてもやっぱり黙って下を向いてしまい、バイバイも言えない。

どうしてこうなんだろうと私は悩んだ。子供は親の背を見て育つと言うが、親の私は知らない人とのお喋りも気軽にする社交的な性格だ。だから余計に息子の気持ちが分からずに悩んだ。

有名な絵本、「ラチとライオン」はその頃に買った本。弱虫な男の子ラチがライオンの助けを借りて強くなっていくストーリーだ。この本に登場するライオンと似た小さなライオンのぬいぐるみが家にあったので、この本を読んでと息子が私にねだる時、いつも本と一緒にそのぬいぐるみを持ってくるのが可愛らしく、この本を読む時間は私のお気に入りでもあった。

結局、この本を何十回読んでも私の息子はシャイさは特に変化しなかったけれど、ある日プリスクールから帰ってきて誇らしげに言った。「きょうね、こどもたちとしゃべったよ」。

あなただって子供なのにね、と思いながらも私の胸がパァッと明るくなった。「わぁいいね。なんて喋ったの?」と聞いてみたら「あのね、“アイアーイ キャプテン!!“って言ったら、こどもたちが笑ったの」

どうやら息子は1人で海賊船ごっこをしていたらしくその状況での事らしい。これを「喋った」と言えるのか分からないけれど、息子にとっては大きな一歩だった。そしてそれは何故だか私にとっても転換期になった。息子は今のままで大丈夫、彼のペースで皆との距離を縮めていけばいいと思えるようになった。そしてティーンエイジャーになった今では、昔のシャイさが笑い話になるほどに成長した。

この絵本の中でライオンは、ラチが強くなるまでそばで見守り支えてくれている。ぬいぐるみでも、架空の何かでもいいから、全ての子供達にとってそんな存在がいるといいなぁと思う。同時に、そのままでもいいんだよ、大丈夫だよと言ってあげられる存在もいるといいなと思う。

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