ココロの眼‐第四章 セラピスト
「趣味はゴルフです。」
と、最近は言えなくなってしまった。行ってもいないのに言いづらい。
大学では誘われるがままにゴルフ部に入って、高校までソフトボールをやってたことが活きたのか、上達が早かった。それを褒められるのが嬉しくて、人一倍練習した。人一倍って変な言葉だなと気づくくらいだから人の二倍はやった自負はある。
四年生の夏だ。卒業したらどこかの会社に就職しなければいけないということに気がついた。
ゴルフはそれに気づかせないほど私を夢中にさせていて、友達が内定を次々に獲得していく話は聞いていたはずなのに、全く人ごとで、それと自分を重ね合わせることをしていなかった。
ゼミが一緒の正雄くんは、内定を十社もらってると言っていた。なのに、まだ就活を続けている。自分に合った会社があるはずだ。とか、動かないととか言っていた。
なるほど。
とは思ったり、
そうね。
とか言ったが、どうもこの私が社会に出てどんな仕事をするのか?
ピンとこなかったし、私はどちらかといえば、合う合わないより、なんか好きな仕事につければ良いなとボンヤリしていた。
「美羽にはこんなのが良いよ。」と頼りにしていたところから惹かれていった正雄くんが連れてってくれた合同説明会というのは、百社はあろかという会社さんが、寄りかかると倒れちゃいそうな簡素なパーテーションで、私の部屋ほどだけど、天井はなく玄関は開けっぴろげな自社のスペースを作り、パイプイスに学生を呼び込んでは人事の人たちが熱く語っている。賑わいとか風情はどこかで見たお祭りだったり、屋台村のようだ。
運動部に所属する学生がターゲットにされている種類の会らしい。
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