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ワタシの大切なボク

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記事一覧

ワタシの大切なボク-第10話 先生と

ワタシの大切なボク-第10話 先生と

 ボクばベッドに寝ている。

 あれ?ここどこだっけ?そんな目覚めだったから、よく寝ていたのだろう。
左には真っ白な壁、右にはクリーム色のカーテンが見える。
カーテンの向こうは見えないけど慌ただしく人が歩く音が聞こえる。
聴き慣れた音だった。

 自分の居所を理解すると同時に、寝てしまう前までは煮えたぎる血液に全身が支配されているかのように感じていたのに、寝起きの今は血液は赤色でさえなくなって清流

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ワタシの大切なボク-第9話 アトピーと

ワタシの大切なボク-第9話 アトピーと

 「やっぱさ、帰らない?」
と友達は言った。

 東京ドームでの日ハム戦だった。
ジャイアンツ戦では座ったことのないシートが手に入り、野球好きの友達を誘った。
チケットを見せて回転扉を抜けて、チケットに記載されてる通路を探し、そこから球場を一望したときの心の躍動感はいくつになっても小学生の頃と変わらない。
いつものジャイアンツ戦ならそこからドームの屋根に向かって上に登ってくとこを今日はドシドシとグ

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ワタシの大切なボク-第8話 病院と

ワタシの大切なボク-第8話 病院と

 明子姉さんのような看護婦さんがいる医院にはいつからか行かなくなった。
いつかは正確に覚えていないが薬という名のクスリを出してくれなくなった時からからだ。

 お医者さんは薬のようでクスリのようなものだということはよく理解しているのは当然で、クスリを分けてくれる時に口頭ではあったけど、使いすぎるな。
良くなったら使用は止めろ。
と言っていた。
それを守らなかったわけではない。
ちゃんと相手のボスの

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ワタシの大切なボク-第7話 高校野球と

ワタシの大切なボク-第7話 高校野球と

 医師の忠告は聞かずに野球を中学でも続けた。
高校ではもうやるつもりはなかった。
アトピーが理由ではなく、高校で想像される厳しい練習についていく自信はなかったし、禁止はされてだけど周りの話にノッてバイトでもしたいなと思っていた。

そうは思ってはいたくせに別の中学校で野球をやってた奴から

「一緒にやろうよ。」
と声をかけられて、だだの同級生の誘いなのにスカウトされた気分になってあっさりと野球部に

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ワタシの大切なボク-第6話 7人家族と

大人になってから兄弟5人が揃うのはお正月か親戚の冠婚葬祭くらいしかなかった。
 冠婚葬祭の場に5人兄弟が黒のスーツで揃えば、それはちゃんとした「組の集まり」にしか見えなくて、ボクが俳優だとするなら冠婚葬祭の式がさながら「仁義なき戦い」撮影の本番で、それまでの着替えとか待ち時間とか、式場に向けて5人それぞれが歩いてく様子はジャッキーチェンの映画でお決まりだった撮影前後の未公開シーンを撮られているよう

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ワタシの大切なボク-第5話 兄と

ワタシの大切なボク-第5話 兄と

兄とケンカをしたことはないがある勝負をしたことがある。

 兄は3人いるから、兄弟の構成をある組織に例えるなら、5人兄弟の長男は組長で次男は若頭。三男、四男、五男は組に入った年数が違うから先輩後輩の関係ではあるが、立場は同じチンピラで、上層部の2人と下っ端の3人という兄弟社会だった。

 長男、次男がいると、ヘイ!という返事を返してしまいそうなスタンスでもって上層部をイラつかせてはならない。上層部

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ワタシの大切なボク-第4話 弟と

ワタシの大切なボク-第4話 弟と

兄とケンカをしたことはない。

 弟ともないのだけど、弟のことは1度だけ顔をグーで殴ったことがある。

 母に口答えをする弟の言い方、やり方が許せなくて殴った。
いつもはそんなことは許していた。
実はその時も腹は立っていたが、殴ることでもなかった。誰かを殴ってみたかったというのが多分正しい。
もしかしたら殴られるという体験でも良かったのかもしれない。
テレビでも小説でもケンカといえば相手の顔をグー

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ワタシの大切なボク-第3話 口裂け女と

母は保険外交員をしていた。

 生命保険会社の営業マンであり、契約後のサービスマンであり、当時は保険料の集金も仕事のひとつで各家庭を巡って現金を受け取っていた。

 その集金を手伝ったのをよく覚えている。母があらかじめに受け取る金額の領収書と想定出来るお釣りを透明のビニール袋に入れてボクに持たせる。
指定された家に行ってピーンポーン!がある裕福な家はそれを鳴らし、ない家は鍵は掛かってない引き戸をガ

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ワタシの大切なボク-第2話 イダパンと

父は板金加工の機械販売の会社を自分で起こしたが、上手く行かなくなり、同業の会社に吸収してもらって、それまで培った技術や人脈をそのまま活かせる仕事に就いた。父を迎え入れた会社は大阪が本社だったから、ボクらが住む埼玉の自宅に帰ってくるのは数ヶ月に数日だった気がする。

 兄弟は男ばっかりの5人兄弟。

 ボクは4男。
長男、次男、三男くらいは当たり前の時代背景だったが、ヨンナンともなると音を聞いても四

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ワタシの大切なボク‐第1話 巨人の星と

ワタシの大切なボク‐第1話 巨人の星と

「野球ってのはもうやめた方が良いんだよね。」 小学校に入る前から通っている病院のお医者さんはそう言っていた。

 「そうですよね。」と母は言っていた。

 ボクはなにも答えなかった。
答えない理由を横で聞いている看護婦さんが理解しようとしてくれる感じは星飛雄馬のお姉さん明子さんの雰囲気と似ていて、この病院というか医院はキライじゃなかったのだけど、一番のキライじゃないワケはお医者さんの指示であの明子

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