見出し画像

くも猫 ふわふわ日記 日光(にちこう)の棚田に行った

「熊本は農業県」と言いながら、農業についてのNPOとか全然ないんよね~と、言っていたのは10年前のYさん。今はどうだか知らないが、確かにその当時はなかった。( もちろん、林業漁業についてのNPO) も。そういったジャンルはJAやJFが仕切っているのだろうか、要するに彼の言葉のニュアンス的に「熊本は農業県」と言いながらも、ぜんぜんすそ野が広がっていないという事を言いたいんだろう。

Yさんはそこで県内初めての農業支援のNPOを立ち上げた。田植え体験、商品開発、草刈、勉強会などなど。どんどん仲間を集め、イベントに取り組んだ。NPOだから利益を上げてはいけない…というわけではなく、分配したらダメなだけで、それでも農業支援がメイン事業では採算も上がらず、事業資金ほとんどが支給される補助金だった。僕もいつの間にか、メンバーに加わり、理事の肩書を持つ雑用係だった。当然みんな昼の仕事をしていたので、自分の空いた時間、休みに活動をするのである。結果、名ばかりのメンバーは去り、少ない人数でいろいろなイベントをこなした。

イメージ的には支援というのは「困っている農家」を支援ということだが、実際はそれほど困っている農家は存在せず、ある程度、余裕がある農家が多かった。もしくは、あわよくばNPOを利用するだけしょうかと、思っている農家。本当に困っている農家は他人から下手に支援される暇もないほど、作業が忙しいのだろう。

余裕農家チーム、あわよくば農家チームは用事が住んだらフェードアウトした。我ら、街からやってきたタダお手伝い。気の良い農業イベント屋なのだ。加工品の開発なんて、そう簡単に売れるわけない。どうせだめだろー。でも、あわよくばNPOの奴らの口車に乗りやってみようか、トマトジュースの加工販売。費用は彼らの補助金でタダだし。

Yさんは穏やかそうで我が強く、結果、僕と似た者同士、数年でたもとを分かつ。僕は自分で農産品の販売会社を立ち上げる。辞める前に、僕はある事業をネーミングしたり、Yさんたちが始めた、お店の名前を付けた。皮肉なもので、僕のネーミングした事業は軌道にのり、Yさんたちのイベントはマスコミで大きく取り上げられるようになった。男の嫉妬は見にくいが、そんなイベントが取り上げられるのを横目に、僕は全然売れない「ほうれん草のパウンドケーキ」を頬張った。

それから10年。僕も大病をし、不思議とYさんの事を思い出すようになった。一時は話題になったNPOのイベントも最近聞かなくなったし、おそらく県の財政難で補助金がカットされたのだろう。逆に僕の事業は拡大し、利益はでないもののある程度の売り上げが上がるようになった。僕は僕で相当苦労したのだ、金策からなにやら、頭の線が切れるまで。

そんな中で学んだのは、やはり自分の身を切り事業しないと「ただのいい人」で終わるという事であり、話の途中で「人を利用しようとするだけの人」とは付き合わない方がいいということだった。当たり前のことだけど。いったい「農業支援」のNPOって何だったんだろう。いや、農業全体が国の補助金で成り立つ事業なので、もういい加減に、農業・農家を見る目も冷静になった方がいいと思うのだ。

思い切ってYさんのお店に電話する。電話口では本人が出る。何やらモゴモゴ元気がない。店に行くと奥さんが一人居た。Yさんは体調が悪く、病院に通院しているとの事だった。奥さんと10年分の話を3時間でする。

話の途中で八代市坂本町の日光 (にちこう) の話題が出た。標高300メートルの山の中腹にある歴史の深い棚田だ。後継難でほとんど稲作を辞め、今は畑になっているとのこと。Yさんらの最後の仕事として、全国から移住者を募り一人だけ定住し、田んぼを始めたらしい。しかも相当年配の人。

画像2

小雨の中、日光に向かう。話の通り、田に水はなく野菜が栽培されていた。当時は全国棚田100選として選定された棚田だ。今年から、国は棚田遺産として全国の棚田を選定し紹介するそうだ。棚田はもう「遺産」なのだ。棚田を支援するどころか、衰退させたままの農業県熊本は無為無策だった。日光の棚田は選に漏れた。

写真を撮っていると、畔を登って来る老人一人。その人が広島から移住してきたNさんだった、年は85歳と言った。日光の人の善意で田んぼを借り、これから田植えの準備だそうだ。何かイベントがあれば連絡しますと、携帯番号を交換する。

画像3

YさんもNさんも、僕もトンガリ山のてっぺん。フールオンザヒル(苦笑)  誰も居なくなった場所で一人、まだ何かもぞもぞやっている仲間同士。もちろん次回声がかかれば、カメラ持って坂を登るつもり。

途中の鮎帰り地区も、改めて見るに石積の素晴らしい景色があった。一軒、緑におおわれた床屋があった。次回、伸びた髪を散髪してもらおうとおもう。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?