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フランツ・リスト ソナタロ短調

リスト自身を反映したかのような、この特別な作品を知れば知るほど、その内側に秘められた、さまざまな側面と次元に驚かされます。

オーストリア=ハンガリーの作曲家、ピアニスト、指揮者、劇場監督、音楽教師、作家であるフランツ・リスト(1811-1886)は、50年以上にわたる探求の中で、自分自身と音楽を常に発展させた人でした。

この作品が作曲された、ワイマール期(1848~61年)のはじめ、リストはピアニストとして素晴らしいキャリアを積んだ後、活動の範囲を、指揮、劇場マネジメント、教育など、広げつつありました。 この作品の自筆譜には多くの修正と徹底的な推敲の跡が見られ、作曲家としても意識的に新しい試みに挑んでいる事がうかがわれます。

それまでの「ピアノ音楽」「ソナタ」「ロマン派」といった範疇をはるかに超越し、シンフォニックな響きや即興要素、そして、彼の得意としたピアニスティックな超絶技巧を盛り込んだこの作品は、非常に前衛的で、近代音楽を先取りしているかの様な印象を受けます。

冒頭、遅い心拍を連想させる四分休符と四分音符は、無と有、または死と生といった、生命・宇宙の起源を連想させます。その後に続く下降するハンガリー音階は、リスト自身のルーツ(過去)を象徴しているのかもしれません。
この静けさを突き破るかのように、突如、減七度のモチーフが現れ、巨大な緊張感が構築されて行きます。どの調性にも解決せずに展開・拡大し続けるエネルギーは、それまでの縛りを「未来」に向けて解き放つかのように力強く、行き先の見えない、異様な雰囲気を醸し出します。
狂気的な緊張感を伴い、一連のテーマが出揃った後、それらが一瞬にして静寂によって断ち切られ、即興性のある間奏によって、意識が「現在」に引き戻されます。
その後に続く、優しく祈りに満ちたコラールでは、慰めと安らぎが与えられますが、それも束の間、次元の狭間に紛れ込んだかのようなフゲッタ(小フーが)を経て、再現部へと突入していきます。
コーダでは、コラールが再現された後、不穏さが崇高さへ昇華され、最期の鼓動であるかのような、終音とフェルマーが付記された休符によって壮大な物語が幕を閉じます。

無から生じ無へと還るその過程で、考え得るすべての相反する要素を内包する、大いなる宇宙のようなこの作品を通して、リストは普遍的な真理に近づこうとしたのではないか、と思えます。

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