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【ショートショート】 ヒソヒソ

「ヒソヒソ」
「ヒソヒソ」
「何してるの?」
「ヒソヒソ話だよ」
「ヒソヒソ」
「ヒソヒソ」
「どんな話?」
「ヒソヒソの話だよ」
「どんな内容?」
「ヒソヒソについてだよ」
「ヒソヒソの内容について知りたいんだけどなあ」
「ヒソヒソはヒソヒソだよ。これ以上分解できない」
「例えば猫は猫だし、りんごはりんごのように?」
「その通り」
「嘘だ、そんなの嘘だ」
「そんなこと言われたって…」
「どうせ僕のことを馬鹿にして…悪口言ってるんでしょ」
「被害妄想というものだよ」
「だって意地悪な目で二人して僕を見てたし」
「ヒソヒソ」
「ヒソヒソ」
「ヒソヒソ話をやめてほしい」
「ヒソヒソ」
「ヒソヒソ」
「泣いちゃいそう…」
「ヒソヒソ」
「ヒソヒソ」
「楽しい?そんなことして」
「ヒソヒソ…」
「ヒソヒソヒソ…」
「僕も秘密は守る。だからヒソヒソを開示してほしい」
「君も僕らの秘密を共有するんだね」
「後悔しない?」
「ああ。後悔なんかするもんか。君たちの話に混ぜてほしい」
「秘密が漏れた場合は死をもって償ってもらうよ」
「ああ、構わない」
「本当にいいんだね」
「腹くくるんだね」
「実はある男を殺害しようと目論んでいるんだ」
「誰を?」
「サイトウ先生だよ」
「なんで殺したいの?」
「まあ、それぞれ色々あるけど。例えばこいつは、授業中に恥をかかされた。僕は校舎の裏でタバコを吸っていたのを注意された」
「それって、逆恨みじゃないの?」
「そうとも言えるけど、許せないんだ」
「それで?」
「職員室の先生のところへ行って、コーヒーの中にこっそりヒ素を入れた」
「大変じゃないか!」
「今頃は痙攣してるかも」
「泡吹いてるかな?」
「早く助けに行かないと!」
「手遅れかもね」
「まだ飲んだとは限らないよ」
「秘密を共有するって話、覚えてる?」
「なんだっけ?」
「まあ、落ち着いて」
「そうだ、落ち着こう」
「冗談ってこともあるだろう」
「嘘なの?」
「まあ」
「とりあえず、座ってお茶でも飲もうか」
「そうだ、乾杯しよう」
「なんで?」
「素晴らしき明日のために」
「あるいは僕らは…」
「たゆたえども沈まず」
「乾杯🥂」
「あら」
「効果早すぎない?」
「初めての人は即効なのかな?」
「バカな。誰だって初めてだろ」
「飲んだら最期だものね」
「悪趣味だな」
「だって、こいつが悪いんだよ」
「そうだね、秘密をバラそうとしたし」
「泡吹いて痙攣してる」
「息の根を止めてやった」
「ヒ素様々」
「ヒソサマサマ」
「あんまり大きな声で言うなよ」
「誰かに聞かれちゃマズいものね」
「ヒソヒソ…」
「ヒソヒソ…」


(1029字)

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