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鏡花幻想行  天沼 春樹

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泉鏡花作品へのオマージュ(新作)
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2017年1月の記事一覧

鏡花幻想行 第一話 夜行

鏡花幻想行 第一話 夜行

            序

 

どうにも心が遊びにでてならない。いや、魂が迷い出るというべきか。昼といわず、夜といわず、時をえらばない。それでも、新月の夜がいちばん多いのはどうしたわけか。次は雨の宵。こちらは、世間の物音が遠ざかるためでもあろうか。

死者の声が聞こえてくる。生者の息づかいが遠のいていく。《いま》という時も遠ざかる。自分は《いま》という時にふさわしからぬ人間のような気持ちにさえ

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鏡花幻想行 第二話

鏡花幻想行 第二話

          白蓮抄                   勝国 彰 画(部分)
                                                                     一

「それが、その双子の姉妹ときたら、並外れての器量よし。そのとおり、双子じゃによって、どちらが劣るということもないわけだ。十六になる春には、気のはやい縁談が三つも押しかけた

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鏡花幻想行 第三話

鏡花幻想行 第三話

雨女(amaonna)



夜半に一度だけ、遠くで雷が鳴った。

しばらくあとで雨がやってきた。庭先のトクサの茂みが頭を揺らしはじめたのを縁先からみとどけたなり、私は硝子戸をしめて離れにひきこもった。

旅先の、しかも友人宅の離れに仮の宿りをはじめて三日になる。友人とその家族は、二日目の午後に、数日といいおいて親戚の法事にでかけた。体のいい留守居であるが、三度の食事も気儘に外にぶらりと出ては、

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