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鏡花幻想行 第二話

          白蓮抄

                   勝国 彰 画(部分)

                                                                     一

「それが、その双子の姉妹ときたら、並外れての器量よし。そのとおり、双子じゃによって、どちらが劣るということもないわけだ。十六になる春には、気のはやい縁談が三つも押しかけた」

列車の揺れに目を覚ますと、近くの座席で声高に話す田舎紳士の大口舌が耳にはいった。まどろんでいるうちは、車軸のきしみにまぎれての雑音にしかすぎないが、さて、目覚めてみると耳障りな濁声。鴉が百日咳でも患ったかのような声音。

列車は海に沿ってひた走っている。日が暮れはじめた窓のそとが紅をさしたように染まっている。しかし、半時もすれば海からはいあがった闇に、それも呑みこまれるはず。客たちは退屈しているか、眠っているだけのこと。

 話しているのは年の頃五十すぎの田舎紳士。中学校の教頭か、役場の収入役でも似合いそうな俗物。世辞のいい相手には愛嬌もふりまくが、私のような東京からの客などは警戒して眼中にないそぶりをする。それでいて、話のなかに都会者を揶揄する言辞を忘れないから癪にさわる。

はなから聴かぬふりはしていたが、双子の美人姉妹という餌にまんまと釣り上げられたのは不覚であった。

「だが、話はここからよ。双子の姉のほうが、いくらか腺病質で、冬になるとまっさきに風邪をひく、熱をだす、なかなか床をはなれられないというわけで、丈夫なほうの妹がもっぱら人目にふれるというわけさ。酉の市だの、晦日まいりだので町へでるとすぐに噂になった。どこの小間物屋で帯留を誂えたの、なじみの八百屋に蜜柑を袖に入れられたのともう煩いこと。青白い書生くずれが一目惚れしたとさわぐのも妹を見てのことだ。だが、たいていはおもてに出ない姉への恋慕と風聞されていく。どのみち岡惚れじゃ、どちらにしてもいいのさ」

男はますます調子に乗って話をつづけていた。途中二駅ほどに停車して、話相方がひとりふたりと降りていく。これからいよいよ佳境というところで、件の美人姉妹にいかようなことが起こったのか、誰しも後ろ髪をひかれる思いで車中を去るようすだ。それを口にするのは、あるいは世辞かもわからない。三文芝居には、幕開けはよいとして、次第にダレ場がつづき、一幕が終わるころには、たいがいの客が居眠りをするというのがある。幕開けに居合わせたのが幸いということもあろう。いや、これは物書きとしてのおのれへの戒めでもある。

田舎紳士は、しまいには鳥打ち帽をかぶり、お仕着せの紺がすりという、北国行脚の薬売りのような風体の若い衆を、かろうじて聞き手につなぎとめた。汽車の降り際には、長広舌の罪滅ぼしに商いの万金丹でも買わされるか。いや、毒消しがいるのは聞かされたほうかもわからない。

日が落ちた。汽車は鄙びた鉄道駅をひとつすぎると、薄闇のなかを速度をはやめて驀進しはじめた。

                  二

「お姉さま、お姉さま」

と、さきほどから呼ばわっているのは妹のおようだった。日が落ちて、はや足もとに薄闇がしのびよる刻限なのに、姉のすがたがどこにもない。東京から客をむかえて、晩餐の席がもうはじまろうというのに、当家の一方の華が不在ではいかにも寂しい。

 そればかりか、姉はここ数日風邪をこじらせてふせっていたのだから、いくら春霞に水のぬるむ季節だとはいえ、夜気はからだにもさわる。姉の部屋に呼びにきたおようは、姉の寝巻がきちんとたたまれ、夜具もさっぱりとかたづけられているのをみた。

 昨夜まで枕から頭もあがられぬほどであったのに、こんな時刻にどこへ出ていったのか。胸騒ぎがして、妹はちびた庭下駄をつっかけざまに、ころがるようにおもてにとびだしてきたのである。屋敷のまえから東南に一筋の道がのびている。一方はだらだら坂で町へつづく。反対の道は剣呑で、裏山にのぼるばかり。日暮れにのぼっていく道でもなし、あるのは古い祠がひとつ。祠をとおまきにのぼる細道もあるが、それはこれからより深い山また山への入り口。山刀を帯びた木挽きでもなければ踏み込めまい。

娘は、いくへんも姉の名をよびながら、町のほうへ下っていった。着物の裾をひるがえしている脚首が白い。

坂をおりきっても、誰もいない。もはや尋常でないことはたしかなことで、おようは苦しげに息をつきながら振り返った。

一町ばかり後ろから走ってくる者がいる。白いシャツの袖をまくりあげた書生の風体で、彼も屋敷の門よりおくれて走り出てきたのである。

「おようさん、おようさん」

と、その声は聞きちがえるはずもない。今夜の客のひとりで、帝国大学の医学生、日下部晴夫である。晴夫は当家の遠縁の子弟で、高等学校から上京して医学に専心している俊才だった。おようには兄とも慕ってきた仲である。来春は晴れて医学士として近隣の公立病院に赴任してくる話が決まっていた。

「お屋敷のなかはくまなくさがしました。これから使用人が提灯をともして四方にさがしにでます」

屋敷内は娘が誰ぞにかどわかされたような騒ぎらしい。ただごとではないのだが、おようにはわかっていた。姉はみずから家をでていったのだ。でも、何故、今日の夜になのか合点がいかない。

「もっと下のほうを」

と、いってから、おようはその方角はなんだかうつろのような気がして、はっとした。双子の姉と妹ならではの直観で、姉が町にいったのではないとわかるのである。しかし、それを口にするのはおそろしい。もしも、山の方角へ姿を消したとなれば、すでにして覚悟はひとつ。かねて、姉が問わず語りに、ときおりみる夢の話を思いだしていた。

龍神の化身とみられる若者が、夜な夜な通ってきて、魔界幽谷の沼にさそうのだという。三輪山の神のならいに似て、白面の貴公子であるが、なぜかこちらには手も触れようとせず、すべての謎は龍神の沼にて明かすというばかりだった。いかなる縁で姉をみこんだのか、双子のおようではなく、姉でなくてはならないというのだ。夢なのだ。すべてを解きあかすという約束も、人ならぬ龍神の妻になれというお告げも。しかし、その夢語りを今は誰にも話すわけにはいかなかった。

                 三

深山幽谷、山また山をわけいってもなおその先に険しい山がひかえている。いまだ人の足が踏んだこともないような原始の森にわけいったところに、緑青をとかしたように、みじろぎもしない静かな沼がある。水の生き物とて棲まぬという魔の池だ。水苔か藻草のみが、毒気を吸っては沼底に降り積もるばかり。そんな魔処の主は、故あって何百年もその沼に封じこめられた龍であった。どのような法力によるのか、あるいは役の行者の秘蹟かもしれぬ。もとは、その山の神か魔かという者。

 その沼に千年ごとに一輪の白蓮が花弁をひらく朝があるという。そのときばかりは、猖獗をきわめる沼の気が浄化され、あらたないのちが生まれ出る。曰く、代がわりの朝ではあるまいか。

白蓮はただ一千年の朝を待って咲くのではない。

千年の因果にみちびかれた出会いを経て、かわされる涙の養分を吸って観音力の慈愛が太古の種を芽吹かせるのであるという。

深い山また山をとおまきにめぐってしだいに奥深くへみちびいている道ともいえぬ林道を、朝早くからおぼつかぬ足どりで登っている人影がふたつあった。初夏とはいえ、日もささぬ木立の下は冷え冷えと薄荷のような冷気がわきあがってくる。足もとに湧きだす清水に足袋までもじっとりしめりはじめた。

肩をならべて登っていくかたわれが、すこし足をすべらせ、一方がはっしと抱きかかえた。

「やはり、麓に待たせておけばよかった」

と、日下部晴夫はおようを抱きおこしながら、心配そうにそういった。

「いえ、たとえ置いていくといわれても、後についてはなれません。杖をひいてもついて参ります」

「だが、道はこれからが難所です。しばらくは平坦になりますが、またじきに尾根にむかってきつい上りに」

「難儀は覚悟のうえ、わたくしが参らねば誰が参りましょう。言葉さえ通じぬようになっているならば、そこはおなじ母の胎から出た姉妹の縁しか頼るものはありません」

男はうなずき、女の手をひいてなおしばらく登っていった。先刻すかし見たように、木の根だらけの山道はとだえ、しばらく林のあいだを木漏れ日のさす平坦な道がつづいている。やれやれ、しばらくは息のつける道のり。おようは、ふがいなさをみせまいと、晴夫より半歩ばかりさきに出て、足をはやめた。

「あれっ」と、おようの声が森閑とした山道に谺となった。

立ちすくんだおようの指さすさきに、道を六尺ばかりの長虫が一匹横ぎっていく。この山の主ともみえる蛇とみたが、もっとさきにはその親のようなものまでいるような按配。地をぬらす湧き水をかぶったのか、濡れた長い尾が道の片側の草むらに消えていくまで、これがまたながい。

「なに、かまいますまい。こちらが知らぬふりをすれば、敵ともならんでしょう。気味が悪いのはわたしもおなじですが」

晴夫は気をとりなおして、いましがた大蛇がとおった道をまたぐようにしていく。もとよりおようも晴夫と寸分も離れるつもりはない。

しばらくいくと、またしても長いものがぬらりと道をさえぎっていく。これは、さきほどのものよりはよほど小者であるが、気味の悪いことには変わりはない。触らぬ神に祟りもなし。やりすごしてさらにさきへと歩いていく。ヤマカガシだの青大将だのと、蛇であるうちはまだしも、鬱蒼と覆いかぶさる樹冠から蛭でも降ったひには、若いふたりも血の池にのまれて消えよう。

おようは、それでも気丈にゆくてをみつめて、一足でもさきにすすもうという心意気はくじけていない。双子の姉がにわかに失踪してから二月余り、四方への捜索も空しいものとなった。やはり、神隠しであろうというもっぱらの噂も、なんのてがかりにもならぬ。だが、おようだけは、知っている。姉はおよそ尋常でない世界に誘われていったことを。ただひとり、おようの言葉を信じた許嫁の日下部医学生をたよりに、この人跡稀なる山道に踏み込んできたのである。

道はまたのぼりはじめて峠へと登っていく。その峠のあたりに、ぬけるような青空を背景に、一塊の積雲がわきあがっていた。まだ、峯のうえに顔をのぞかせるばかりだが、やがてはこのあたり一帯に荒ぶる雷雨でも運びそうだ。

                  四

峠に黒い影がたった。天から降ったか、地からわいたか、やがて杖を曳いた人影となり、しずかにこちらにむかってくる。もとより、こちらの二人の影が山に映ったわけでもない。思わず立ちどまったふたりのまえに、いよいよ顔をあわすばかりになってみれば、かなたは若い僧形のものである。衣は絽の薄衣、首に数珠をかけ、草鞋の足拵えもきりりとゆるぎのない。寒暑風雨もなく、また、魔処も巷も眉ひとつ動かさず旅をしてきたような面構えである。ただならぬふたりが、ただならぬ道を魔処にむこうて辿っていくのを気づかわしげに見下ろした。

「さて、御苦労な道のりとみうけますが、峠のさきに妖しげな雲が湧いております。余程の覚悟の道行きとみたが、用心されよ」

聞けば叡山を下って諸國修行の途上という。二日ばかりまえには、妖気蔓延する山中をかすめて歩いてきたが、まさかそこへの道行きではあるまい、とただすに、まさしくふたりの面に浮かぶは禍々しき凶相である。

「いずこの魔処といえども、姉さまがいらっしゃるならば、参らぬわけもありません」

おようは毅然として言い放つ。僧侶は、おもわず相好をくずし、

「まあ、おききなされ。微笑みを忘れずに、心にとめおかれるがよい。観音の最後の面は鬼神をにくむ強面ではござらぬ。まさかのときは、呵々大笑されよ。尊称陀羅尼の経を唱え、一方は微笑んでおられるがよい。魔は退散しようほどに。いや、なに、魔も仏も、身のうちに宿るもの」

僧は、穏やかに微笑みながら、首からはずした数珠をおように手渡し、一礼をしてふたりが来た方角へ歩み去っていく。あとはただ見送るばかりである。

                 五

激しい雨が、山の尾根づたいにこちらにはしってくる。宿る場所もない峠道。いずれしたたかにうたれる覚悟はあるが、雨のあとは大木よりもふとい火の柱が落ちてくる。稲光と雷鳴がほとんど同時に頭のうえではじけた。雷はなにものかをさがしまわっているようにもみえる。魔界に踏みこんできた人間のありかをさぐり、その入り口で焼き滅ぼしてしまおというのか。

「さあ、あの大木のかげへ」

と、日下部医学生は、雷雨を避けようと、おようと巨木の根方にむかった。もとより、落雷には危険な地形。丈の高い樹木など雷をよぶ目印のようなもの。それでも、おようがしたたかに雨にうたれるのを、すててはおけぬ。おようの唇はすでに青ざめている。数珠を握りしめた手が小刻みにふるえていた。

「あれ、稲光のなかにおそろしいものが」

と、うわごとのように指さした。かの魔性の沼の主のすがたをかいまみたのか、龍の鬚が雲間にあらわれたのか、つられて晴夫も暗雲のなかをすかしてみた。雲は壁のようにこちらにせまってくる。

目の前に火柱が突き刺さった。ふたりが、これから走り寄ろうとする大木に落雷したのだ。雷雲のなかの魔が、先手をうったものか。大木の幹が炎をあげてメリメリとふたつ裂けた。

「ごらんなさい!」

と、さけんだのは医学生のほう。まだ燻っている大木を指さす。

「むこうに道が」

なるほど、虚空にぽっかりと口がひらいたように、裂けた大木のあいだに道が見える。もともと木の陰にかくれて見えずにいたものか、それとも。

天からのいかづちは、魔の手先であったともかぎらぬ。容易に近づけぬ魔界をめざすふたりに、その入り口が開いたのでもあろうか。雨はそのあいだも、ますますはげしくなっていく。

「行きましょう、どこへなりと」

おようは、まなじりを決して、歩きはじめた。

ふたつに裂けた大木のあいだをぬけて、向こう側に出てみると、とたんに晴れた。振り向くと、もときたほうはまだしとどの雨。こなたと、かなたとは世界がちがっ。ているよう。

一瞬にして、そこは蝉時雨のふりそそぐ山道。両側に丈の低い草が繁るばかりのせまい間道のようである。人跡の絶えた木曽の旧道に似た風情。空気はひんやりと冷気をふくみ、日が落ちれば霧もでよう。

「このさきになにが待っているかわかるような気がします」

と、日下部医学生。おようもしずかにうなずいてみせた。

                六

万世のうらみが 蛇となりて

千々のおもひを からめとる

百瀬の滝の 誉れなき

十日の菊の おそきあしたに

沼に潜んだ龍神が、おのれの不運を憂いたのであろうか、眼下に青白い光をはなっている沼からふいにそんな歌が聞こえてきた。数え歌のようでもある。

「お姉さま・・・」

と、おようは身をすくませた。

沼のうえに青くうずまいていた靄が形をなして、白い人影が浮かび上がっている。その影がにわかに懐かしい声をかけた。

「遠路はるばるたずねられたは、まことにかたじけなきことなれども、この身はもはや現世のものではありませぬ。あのかたに誘われて、この魔処に身をしずめ、千年またれる朝をまつ身となりました。とはいえ、こうしてこの身のかたわれともいうべきあなたが訪ねてきたによって、いとま乞いに現れました。せめてこの奇縁の行く末を語り伝えておくれ」

それでも、おようは必死に姉をこちらの世界によびもどそうとする。

「お姉さまはこの世をお捨てになるのですか」

幻の女の顔が、一瞬鬼相に変じたようにみえた。すぐにまた伏目がちな顔にもどる。

「あなたとわたくしは、鏡の裏と表。光をうける鏡の裏は漆黒の闇に属すもの。わたくしが輝こうとすれば、あなたが闇に沈みます」

おようは、姉がこの世を去ろうとする心の底を察している。おようが龍神にいざなわれたら、おそらく自分もそうしたであろう。ふたりは、幼少の頃から一つしかない蜜柑はわけあい、縁者からの土産の手鞠も、ひとつしかないときには、どちらも手をだそうとはしなかった。子供であればあたりまえの、独り占めの欲求を、かえってあさましきことと憎むことを覚えたものだ。

すると、幻の女は、たちまちに半身を蛇体に変じて、沼のうえに身をよじった。

「およう。おまえは、この世のおもいにしたがいて、その真心をまっとうしておくれ。恋慕も妬みも、すべては人の世のうちのもの。いまは、こうして異類のあさましき姿になってみれば、身のうちには露ほども残ってはいない。わたくしが、心惹かれているのは、ただ、あのかたの一千年余の孤独な魂なのだよ」

そういうと、幻の女は沼のなかに没していった。姉さま、姉さま、と呼ばわるおようの悲痛な叫び声だけが、しんとした沼の上にすいこまれるばかりである。

一千年の月日がすぎた朝。沼のうえに一輪の白い蓮の華がぽっかりと花弁を開く。沼の面は清浄にも澄みわたっている。だが、その花も水も、もはや眺める人もない。

                七

先刻からの大話がまだ続いているのか、耳障りなブンブンという音にうたた寝をやぶられた。ふと車中を眺めやると、もはや客はいない。かわりに、夜汽車の窓ガラスに、どこから飛び込んだのか大ぶりな蛾が一羽とりついてあばれている。羽ばたきといっしょに撒き散らしている銀の鱗粉におぞけをふるって、私は手巾を顔におしあてた。夜来の珍客には生来閉口するたちで、人の手のひらほどもある輩となると、そこらの空気をよごされたようで思わず部屋を出てしまうが、汽車のなかでは、そうやすやすと車両もかわれない。夕刻の車中で大口舌をふるっていた脂ぎった田舎紳士のほうがまだましというもの。

だが、ふと、あの田舎紳士などはなからいなかったような気もしてきた。いや、さもなくば、きやつはまさしくこの虫の変化かもわからない。

夢を見たのは、とおりがかった魔が、鱗粉をちらすこの虫の不躾を嫌い、物語のまことをしめしたのかもしれない。その魔などは、車内灯もおぼつかな天井の端に銀色の巣をかけてじっとしているあの蜘蛛のすがたでじっとこちらをみつめていたのかもしれぬ。

一幅の物語が終われば、魔も虫のからだをはなれ、またどこぞへ旅立ったはず。

 汽車の響きが一段高くなった。

わたしは呆けたように、いましがた見た夢とも幻視ともつかぬ物語を反芻しはじめた。

 夜だった。鱗粉を光らせている蛾も、糸をめぐらす蜘蛛も、そして、わたしも、夜のただなかを、北へ北へと運ばれていくばかりである。

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