【短いさよなら】

この夏季のある日、「成田空港まで車で送る」てなってその当日朝、ものすご早い時間に自宅のピンポン鳴って、ピンポンピンポンピンポンピンポン鳴って目が覚める(起こされる)。5:15。

よくわからないまま起き上がって階段よろよろ降り、Tシャツ/トランクスななりで、玄関扉ガチャ開けると玄関ポーチのヘリに送る予定な本人が座ってて「ごめん、でも何回も何回もスマホで連絡したんだよ、起きれよ」言った。
「え?いや、その、常にマナモドだからぜんぜん気づかなくて。な何ごと?」
「ちょといろいろあってこうなった」
「あ、あ、そうなの?あらたいへん」(←確かこう言った、ちょと寝ぼけてた)
本人の人はちゃんと旅行支度で、キャスターコロコロ付き薄赤ワイン色おっきめトランクもそばにあった。
「ととにかくあ上がれば。まだ時間あるし」
朝まだぜんぜん暑くはない時間。でもこのあとぜってー酷く(←ヒドく、ムゴく)暑くなるな予感があるふうだった。玄関扉開けたときまだ涼しい風がすー通り抜けてた。

上がった本人の人は廊下つきあたりのダイニングテーブルのある台所まで来て、なんのアクセントもないただ白っぽTシャツにデニムパンツな旅行することだけに適したふうなルックスで、ぼんやり立っててわたしが、ちょと待ってて、言うとうなずいた。
洗面所で急いで顔洗って歯みがきして、2階行って着替えて、黒で胸のところにチェゲバラさんのあの有名な顔と背中にスペイン語でたぶん、革命とはうんぬんかんぬん、とかて書いてある(んだろーなーな)自宅用のTシャツとユニクロで10年くらい前に買った七部丈の紺の夏季用パンツに着替えまた階段降りて台所戻って「コーヒー飲む?」たずねるが、本人の人は「いやいらない」て。

「まーまーそー言わすに」言ってやかんに水入れてガスコンロの上置いて着火ボタンぽち押した。ドトールのレジ付近で買った何かのブレンド豆200グラム、自宅ではあんま飲まないので少しずつ買うようにしてる、のをやっぱりドトールで買ったコーヒーストック缶から出し計量スプンで測って電動ミルで挽いてペーパフィルタのふち折って陶器のドリッパにセットし耐熱ガラスなポット用意しお湯沸くの待った。本人の人は台所の隅に置いてあるわたしが台所でひとりでごはん食べる用に買った足の丈の長いイス(シンクをテーブルにしてその場で食べるとき用なため足が長い)に座ってた。

「で、ちょといろいろてなに?あ、いや、まずわたしが所見を述べよう。どかな?」
本人の人うなずく。
「あーたは昨夜なんやかんやであれこれもめてぜんぜん眠らないままその勢いでトランクコロコロさせタクシーつかまえこの付近まで来て、高額タクシー深夜料金払って、その間わたしに連絡取ろうしたがわたしぜんぜん起きないから、すいません夜眠っちゃうとなかなか目覚めなくて、仕方なく通りのデカいENEOSガソリンスタンド前のセブンイレブンイートインスペースで時間つぶした。つぶした時間は、うーん、1時間。のちここへ来た。どお?」
「だいたい合ってる。1時間はぴったり。でもこんなふうだったらそれしかないでしょ。それになんやかんやなふんわりした箇所が大事なんでしょ。その所見とやらは」
「いやいや。わたしとしてはその部分はふんわりなふーがいいだろーなーな気遣い判断だから」

お湯沸いてコンロの火消してボコボコしてるの収まるのちょと待ってからドリッパにお湯ちょとずつ注ぐ。真ん中付近にごくちょとずつ。ペーパーフィルタのヘリの部分がだんだん濡れ黒くなってってコーヒー粉表面の部分に細かい泡が立ってって耐熱ガラスポットにちょとずーつ真っ黒コーヒー溜まってく。お外のどこかから鳩のあの特徴的な鳴き声が聞こえ、うちの前の道を近所の人の車が1台か2台ゆっくーり通り過ぎてった(←ちょと心象風景含む)。

わたしはこのようなコーヒーのいれ方を楽器の練習飲み屋のご主人に教わった。ずいぶん以前に。ご主人は言った。
「こればかりは急ぐといいこと何にもない。雑にやるとマズい。おいしくない。しかしきちんとやるとおいしい。豆やら器具やらがほどほどでもそれなりにきちんとおいしい」
ご主人の言ったことは本当だった。その後、何回も何回も自分でコーヒーいれたがチャチャとおこなったときは普通にちゃんとマズかった。

ポットに溜まったコーヒーをカップに入れ、はいどーぞ、渡すと本人の人は黙って飲んだ。ブラックで。特に感想もなく。でも少しずつ全部飲んだ。

そのあと本人の人は居間のソファに深く座ったのち眠った(いやわからない、ただ目をつむってただけかも)。その前、もう1週間くらい眠ってない感じする、言ってた。しかそのときはこころもち顔色もいつもなふうになったかな?よくわかんないけど、な感じだった。わたしは居間の庭に面した窓から庭に出て、特にやることもなく(夏朝空気の深呼吸を含めた体操とか朝顔やひまわりの観察とか)、仕方なく何となくぼんやり喫煙した。

7月のある日話してて(←その日のことはそのころのどこかに日記に書いた)、「その日は午後から成田空港内物件現場で仕事な予定だから午前中だったらついでに送ってあげられるけど?」て会話の流れでそのように言ったらそれがビンゴだった。成田発JAL10:00付近ほにゃらら行き。時間のタイミングぴったりな。じゃそゆことで、てなって当初の約束は本人の人んち近くのファミマ向かいの公園前で7:00待ち合わせだった。そこから首都高やら東関道走って成田空港ほにゃららターミナルまで行って、てする予定だった。

喫煙し終わってうちの中に戻り(本人の人はぜんぜんそのままのかっこで目をつむったままだった)10畳和室の神棚と仏壇の水取り替え柏手打ったり線香あげてちーんてしたりした。以前ここに住んでた人にどんなことがあっても毎日かならずおこなうよう言われたのがちゃんと習慣化してて。通常出勤前に自宅で朝食は食べなくともおこなう、というふうで。
それからもう1回着替え出かける準備した。白シャツにグレイパンツ、黒靴下、ネクタイなし。洗面所でシェーバでひげ剃った。

車の中で本人の人はほとんど口開かなかったが車が東関道から成田空港に入ったあたりで「今日はありがと」ぼそ言った。
「いやいや。ついでだから」
「rrんちのコーヒー缶の中にお礼入れてきた」
「はぁ?お礼てなに?」
「50,000円」
「いやいやそーじゃないでしょーそこー。そんなんなら高価なおみやげ買って来るとか今度なんかおごってくれるとか揉ませてくれるとかだろー。普通ー」
無言。
「それか…ずらして見せてくれるとか」
無言。
「あ、いやいや、缶の中にかーいらしー文字なお礼の手紙入ってるとか、現金はちげいだろー。それも50,000円。意味わかんねー」
「わたしとしては本当に感謝してることを形にしたかっただけだ」
「え?あらそうなの(←口ごもるオバちゃん的口調)。まぁ、それはわかるけどじゃ金は取りあえずあずかっとくふにするよ」
「うん」

空港着いてデカい駐車場に車とめて出発ロビーまで行ってそこで搭乗手続き終わったあたりで、じゃね、てする。また連絡するよ/うん/ありがと/気をつけて。とか。
空港はあんま人が多くなくがらーんてしてた。デカいロビーはスーパー涼しかった。ちょと寒いくらいだった。ポケットに両手突っ込んでぶらぶらと、靴音カツンカツンさせて歩いた(革靴だとそうなっちゃう)。

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