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夏の短怪談

Aさんは週末の夜の寂しさを行きつけのバーで和らげている。

お盆前の仕事終わりの金曜日もいつものバーのカウンターでスコッチをちょびちょび飲んでいた。
週末ともあって客入りは多く、さほど広くもない店内の席はカウンターも2卓あるテーブルも埋まってそれぞれのグループが話を咲かせているようだった。

一人で来店しているAさんは特に誰かと話すという事もなく、たまに手の空いたバーテンダーと話す程度でほとんどはスマホを眺めるか周りの客の話し声に何気なく耳を傾けたりなどして自分の時間を楽しんでいた。

そのうちテーブルの方から

「え〜!かわいそう〜!」

と年配の女性の声が聞こえてきた。
誰かを哀れむような会話があったのだろうか。Aさんは気にも止めずその時見ていたスマホのニュースサイトを読み続けた。するとまた

「え〜!かわいそう〜!」

という声が聞こえた。
同じ女性の声だ。ふと手を止めて耳を傾けると

「え〜!かわいそう〜!」

また聞こえた。
繰り返している。
他の客の会話に耳を傾けるが、「かわいそう」という声に反応している様子も、「かわいそう」という発言が出る会話も聞こえてこない。

どういうことだと、顔を上げて店内を見回した。

「かわいそう」と繰り返す声が止んだ。

客の中に女性はいなかった。


Aさんはその後も同じバーに足繁く通っているがこんな体験はそれ以降していないという。


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