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坂本龍一作曲「ラストエンペラー」を完全分析!(主旋律 - その19)

その18からの続きです。今回分析するのはここ。


一周目ではこんな風でした。(分析はこちら

今回分析する二周目ぶんがこちら。(上の一周目ぶんとの相違点を緑でマーク)

「緑がじゃま」という方は以下のをどうぞ。

改めて一周目と二周目を比べてみましょう

一周目
二周目(相違点を緑でマーク)

一周目のほうでこの不思議なパートについては分析を済ませてあるので、二周目が一周目とどういう意図で違う音符が置かれているのかを今回は分析します。一番わかりやすい違いは、ベース音が1オクターヴ下に新たに付け加えられていることです。おかげでずーんと響きます。歴史の重みですね。そして運命の重み。ほかの音符たちは、各小節の和音構成音を勢ぞろいさせるために加えられたものです。(詳しくは一周目のときの分析をどうぞ)

ここが面白いですね。(緑で囲んだところ)

旋律(赤でドレミ)がトップにこなくて、しかし途中でトップに躍り出て「あいわんとごーあーうと!」と溥儀が天を仰いで叫ぶ姿そのままにソプラノの音を奏で、「ソ」に跳ね上がる。(緑でマークした箇所)

一周目では「ド」に下がっていたのが、この二周目では皇帝の最後の意地であるかのように「ソ」に跳ね上がるのです。ちなみに和音も「ソ」が頑張っています。「ソ」のオクターヴ・ユニゾン。「ソ・ソ・ソ・ソ」。

「ソ・レ」和音でもあります。いうまでもなく「レ」は「ソ」に対して五度上の音です。


「ラ」がとても面白いです(緑でマーク)。「ソ・レ・ソ」の和音のなかに音を挟むなら「シ」のはずが「ラ」になっています。なぜだと思います?

この曲はメジャー和音をとにかく避ける作りになっています。溥儀は最後の最後までヒーローになれないで終わる主人公でした。メジャー和音は似合わないのですよ。それで「ソ・レ・ソ」の和音でも「シ」は使わない。「ソーシ」ですと長三度音程つまりメジャーの響きになって、オトコらしくなってしまうのです。それで「ソーラ」にして、オトコらしくならないようにしているのです。

「ソード」にしてもオトコらしくならないのだから「シ」のかわりに「ド」でもいいじゃんと思う方もいらっしゃるでしょうが、そうすると「ソ・ド・ソ」になって、この後「ソ・シ・ソ」に解決しようとする力が発生してしまいます。いわゆる sus 4 和音の原理。これを避けるには「ド」ではなく「ラ」のほうがいいという判断が(ほぼ瞬時に作曲者のなかで)なされたと想像します。

そういうわけで「ソ・ラ・レ・ソ」の響きが選ばれています。「ソ・シ・レ・ソ」ではなく。


オーケストラ演奏でおさらいしましょう。


ファシズム期の不穏な空気と、それを突き抜けんとする幼年皇帝の最後の意地が響きわたる。


つづく

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