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いけないリューイチ・マジック、五輪開会式にて

Abstract: Building on our previous article, we examine "El Mar Mediterrani," performed during the opening ceremony of the 1992 Barcelona Summer Olympics. Leading up to its climax, the composer employs intriguing modulations every measure. After shifting to the relative major, there is a modulation up a perfect fifth, with simultaneous shifts to parallel minor and its major key, followed by consecutive dual modulations up a perfect fifth using polytonality. This composition resembles a musical representation of the breathtaking acrobatics witnessed in Olympic gymnastics. Despite being globally showcased via satellite broadcast 32 years ago, successfully decoding this musical achievement—which should be referred to as the "Ryuichi Chord"—remains unprecedented, at least until this challenge.

[追記 本論考で使われている楽譜は、とある方の採譜に基づくものです。作曲者による楽譜の分析は後日]

⇓ の続きを語ろうではありませんか皆様。


こんなのを前々回(だったかな?)にお見せしました。


前半が4、後半が5の旋律構造です。詳しいことはすでに論じてあるのでとっとと本題に行きます。

後半の小節に、ドレミを振ってみると、こんな風。(調が変わるたびに色も変えてあります。本論考末尾の追記も参照


ここはF短調ですね。旋律は和声的短音階でできています。ソ に ♯ が付いているし。


ここはF長調。つまり平行調転調しています。F短調→F長調に。


ここはC長調ですね。


ここはA長調です。


F短調 → F長調 → C長調 → A長調 と、わかったようなわからないような転調。どう理解したらいいのでしょう?


F短調なのは、割とあっさり謎が解けます。旋律がFEFC で和声にA♭があるから、F短調の和声的短音階でないかなーとあたりをつけられます。


実際、下の小節はF長調なので「ああなるほどF短調がF長調に変わるわけか」と思えてきます。


F長調(赤)がC長調(緑)になる…少々変わった転調であります。


四度圏表を使うと、どうしてこれが少々ヘンテコな転調なのかがわかります。転調の一番の王道は、右回りの転調なのですが、F長調→C長調は左回りなのですよ。


5度フレームで旋律ができているのと関係しています。これに引きずられての左回り、すなわち五度転調をしているのです。


C長調(緑色)からG長調…ではなくA長調へ。なんなんでしょうねこのAは?


C長調は、A短調と平行調関係にあります。12時方向(C長調)に対して9時方向(A短調)の関係です。


左回りを続けるのは、川の流れに抗って泳いでいくようなもので、少々強引さが出ます。そこで裏ワザとして、平行短調に跳んで、さらにそこで平行長調に性転換するという手があります。C長調=A短調≒A長調 という裏技。


さらにもっとすごい裏技が、この小節では使われています。ここA長調であると同時に、なんとなんとD長調とも解せるのです!


これ凄いと思いません? 四度圏表の右回りを、一気にやってしまっているのです。9時方向(A長調)から10時方向(D長調)に針が移動するのではなく、9時と10時の両方に針が向いている感じ。


ここはG長調。時計の針が10時方向(D長調)から11時方向(G長調)に右回りしています。


すべてが瓦解して、土煙で何も見えなくなる…やがて視界が晴れてくるかのように、この賛美歌(の器楽演奏)が立ち現れてきます。


この曲、先ほど楽譜に当たってみましたがD長調です表向きは。しかし実際はかなり曲が進むまでG長調とD長調のどちらとも取れる作りです。

ここで11時方向(G長調)で…

「El Virolai」(くだんの賛美歌)が冒頭からしばらくは11時方向(G長調)とも10時方向(D長調)とも取れて、やがてD長調とはっきりして針が10時方向に確定。

左回りという、やや逆走的な転調を、こういう裏技でスマートに成し遂げているのです。


つづく


追記 5~9小節目パート(下の図)の、赤でマークしたd♭は正しくはc♯ ですね。いわゆる異名同音。事実、下のドレミ表記では「」のままです。

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