スヌーピーでアメリカン・ジョークを学ぼう
ブツの今日のぶんは書き上げてしまったので、暑さから気を逸らすのも兼ねて翻訳論をブッてみます。
今回取り上げるのはこちら。
1968年11月10日付で配信掲載。スヌーピーの誕生日がこのとき確定した、伝説の回。サプライズ・バースデーパーティに、四コマ目で照れてます。
"WELL, I'LL BE A BROWN-EYED BEAGLE !"
この台詞、これまでのどの日本語版も間違って訳していますね。たとえば谷川俊太郎先生のものですと
ぼく素直になろうっと (?)
笹野洋子訳では
そうか、ぼくは黒目をしたビーグルなんだ! (??)
などと輪をかけてわけのわからない日本語訳でした。
この台詞は、英語のだじゃれです。こんなフレーズにひっかけたものです。
You won the “Summer Jumbo” lottery? Well, I’ll be a monkey’s uncle!
(サマージャンボ宝くじに当たったって? うわー超びっくり!)
どうして「お猿の叔父貴になるわ」(I’ll be a monkey’s uncle!)が「超びっくり!」になるかというと、初出は1917年。とあるアメリカの新聞広告で使われたそうです。
ダーウィンの進化論がなかなか受け入れられないでいた頃、この説への反対派が「へっ俺らは猿と血筋だってのか!」と嫌味で言い返したのに由来するようです。なるほど「超びっくり!」なわけです。
以上の曰く因縁を頭に入れていただいたうえで、スヌーピーのくだんの台詞を味わってみましょう。
"WELL, I'LL BE A BROWN-EYED BEAGLE !"
アンクル(uncle)をビーグル(beagle)にひっかけています。想像ですが、作者のチャールズ・シュルツ先生は最初は
WELL, I'LL BE A BEAGLE'S UNCLE!
(いやービーグル犬の血筋って決めつけられたぐらいの驚きだね)
と言わせようと考えて、しかしこれですとほかのビーグル犬の叔父(uncle)という風に、文字通りに取られる恐れがあると気づいて、ひねってきたのです。
"WELL, I'LL BE A BROWN-EYED BEAGLE !"
(直訳:黒目のビーグル犬ってところかな)
「ビーグル」(beagle)の配置を文の末に置いて、「brown-eyed」(茶目)はおまけでつけて、B-B-B の三連ギャグをかましてきているのです。なるほどスヌーピーはもともと黒目ですものね。
まだ笑いがピンと来ない?
"WELL, I'LL BE A BROWN-EYED BEAGLE !"
(直訳:黒目のビーグル犬ってところかな)
これを読んで英語話者は「そんなもんお前前からやろが!」とツッコミをいれつつも、このモンキー・ジョークのセンスに感心しつつ、スヌーピーのハピーバースデーをこの子どもたちといっしょに祝うと、そういう風にできています。
昨日、作者のシュルツ先生の人物伝まんがを図書館で借りてきました。遺族の運営する事務所監修ということもあって、なかなか味わい深い本でした。これによると彼は台詞から書き込んで、絵はその後から描き入れていたようです。無名時代に文字レタリングで食べてらしたことの名残りなのかな? 「ピーナッツ」シリーズが、小粋で奥の深い台詞に満ちているのも、そんな彼の創作スタイルと関係があるような気がしました。
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