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The Raincoats / The Raincoats

音楽に対してここまで自由でいられることに、ちょっと嫉妬してしまう。自由であるために、いくつものルールや理解されるべきことを放棄することは、もしかすると苦ではないのかもしれない。

音は異様に軽い。もし自分がこんな曲を作ってしまったとすれば、人様に聴かせていいものかどうかを本気で悩むのだろう。それでも今俺はこの音楽を心底魅力的だと感じている。

音楽は技術で語るものではないと、頭で分かっていても、たとえば自分が下手くそな演奏を録音してしまうようなら、こんなものはダメだと切り捨てようとしてしまうだろう。けっきょく演奏の練習からやりなおすことになり、だんだんと作ることにめんどうくささを感じはじめるだろう。

The Raincoats の音楽は、今のところこの処女作しか聴いていないので、その後どれだけの技術を手にしたかはわからないけど、とりあえず演奏が上手ではないっぽい。おもちゃで遊んでいるような雰囲気の音楽だ。それがあきらかに彼女たちの色になっている。

それにしても曲の展開が、これまで俺が聴いてきたどの曲にも似ていない。何を聴いて何を食って生きればこんな曲が作れるんだろう。それなのになぜかやっかいなものを作ってやろうというイキった様子がまったく感じられない。おもしろい、これ、おもしろいでしょ?とずっと尋ねられているような気分になる。そしてそれが本当におもしろいのだから、うれしくなってしまう。

おもしろい音楽なんて、作ろうとして作れるものじゃない。かっこいい音楽や、おしゃれな音楽はたぶん作ろうと思って作れる。そう思うと、これはこれでたいへんな技術だと言えるし、マニュアルにはぜったいに書かれていない独自の技術を手に入れるためのマインドがここに至るまでにあったのだと思う。

こうやって書き進めながら、同時に曲を聴き進めているが、それにしても演奏がひどい。ひどくて、最高だ。ドラムのタイミングがズレるたびに「いいぞ!もっとやれ!」という謎の高揚感が生まれてくる。そんなこと、ぜったいに俺自身には許容できない。そして許容してみたいという憧れのような気持ちが芽生える。

今、俺は自分の歌もの作品の録音に取り組んでいる。ほんのちょっとでもいいから、彼女たちのスピリットを受け取ってやってみたいと思えたので、この音楽に今このタイミングで出会えたことを幸運だと感じている。

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