「贖罪じゃない、というダサい気づき」NPO法人だっぴ代表理事 森分志学インタビュー
はじめに
この記事は、
となっています。
今回のインタビューは、キャリア教育の分野で活躍するNPO法人だっぴ(以下、だっぴ)代表の森分志学さんにお話を伺ってきました。
”やってみる環境”をつくる 事業内容
「本日はよろしくお願いします!」
「はい、お願いします。」
「早速ですが、いまだっぴさんが展開されている事業というのはどんなものなのでしょうか?」
「主に中高生を対象としたキャリア教育に資するワークショップをやっています。全体像として、対象者ごとにいくつかの階段があって、その段階ごとに活動があります。」
「まず最初の部分でいくと、学生の意欲を高める階段。具体的には自己効力感・将来への希望・コミュニケーション能力。」
「こうした能力を培う機会として、中高生・大学生・大人の対話のワークショップである”高校生だっぴ” ”中学生だっぴ”をやっています。」
「意欲が高まったら、じゃあ今度は何か自分でやってみたいなと目標設定、問いを立てるというのが重要だと思っていて、では問いを立てるためにはどうしたらいいんだろう?ということで”生き方百科”というwebメディアを運営しています。岡山のいろんな大人の人がこれまでの経験のなかでどう問いを立てて、どう行動したかを記事にまとめて、中高生・大学生に情報発信しています。中学校・高校では授業でも活用してもらっていて。」
「この人は高校とか新社会人の時とかにこう考えて、こう行動しましたって一つの思考・行動パターンを中高生がモデルとしながら、中高生は「この人はこういうふうにやってたんだ、じゃあ自分はこうかな?」みたいな感じで問いを立てていくことが、できるんじゃないかなと思っています。」
「もう一つ、問いを立てた次は、実際にやってみる。ここが結構難しいところで、「やってみる環境」をつくることが重要だと思っています。高校の中に月一回放課後の居場、交流スペース「放課後キャリア探究」を運営しています。」
「ただ楽しくお喋りしたりスタッフと遊びたい子たちもいっぱい来ていて、次第にスタッフとの関係性が深くなっていくと「○○をやりたいんですよね」「○○に興味あるんですよね。」と話してくれるようになって。」
「来てくれた高校生の話を聞いて、じゃあ一緒にやってみようぜ!と、一緒に活動してみる。あるいは飛び出す先の大人を紹介して、一緒に行ってみる。こんなことを県内三つの高校でやってます。」
「実際に行動できるのはまだまだ全体の数パーセントですが、今日の取材みたいな感じで大人の人にいろいろ話を聞きに行くとか、一緒にお料理やボランティアをするなどのアクションが生まれています。」
「なるほど!キャリア教育と聞くとなんとなくとっつきづらい印象もありましたが、学生さん一人ひとりの興味や関心を深めることにも力を入れているんですね……!!」
「あとは学校の中ではできないこともあるので、学校の外にも子ども・若者の居場所・活動拠点をつくっています。久米南町と備前市のユースセンターは、中学生だっぴのプロジェクトをきっかけに、地域の人たちと一緒につくることができました。また、岡山市の公民館や岡山大学・NPO法人無花果と一緒にやっている”オレンジ”といった場所も中高生の活躍の場になるように進めています。」
「やりたい!って思ったことを聞いてくれる大人がいて、実際に挑戦できる環境があるって、なんだか頼もしいですね。」
”強制の中で、みんなで” 中高生だっぴとは?
「森分さんたちが作っている中高生だっぴという場は、普段関わることのない大人と話して、その生き方や考え方を知ることで、今まで見えなかった選択肢や自分の姿に気付くことができる場。というふうに認識しています。」
「おっしゃる通りで、元々だっぴ50×50というイベントでやっていたことを中高生向けに落とし込んだものが中高生だっぴになっています。二つのイベントのやりたいことはほぼ一緒で、いろんな生き方を聞くとか、人とつながってコミュニケーションをするというところですね。」
「主に中高生に向けてフォーカスしている現在の方向性には、どういった背景があるんでしょうか?」
「時系列を追って話すと2013年くらいからそういう思いがあって、2014年にシフトしたんです。」
「というのも、ずっと大学生を対象にしてだっぴ50×50のイベントをやってたんだけど、いわゆるちょっと意識高いイベントで。」
「アンテナの立ってる大学生たちは来るんだけど、スタッフの中で「ぼくらが来て欲しいと思ってる子たちって、そういうアンテナが立ってない子たちも、入ってるんじゃない?」という話があって。」
「じゃあ、アンテナが立ってないのにイベントに来ることは不可能だから、中学校・高校の教育課程に入れていくというのがシンプルで合理的。それで、大学生から中高生に対象年齢を下げていこうと切り替えたのが、2014年のことです。」
「イベントを開いて来てもらうのではなく、自分たちから向かって行くみたいな。」
「そうそう、学校の授業の中で、みんなで参加したらいいやん、っていう。限られた人の為のイベントじゃなくてという発想。」
「授業でやるとなると、等しくみんな参加できる場になるので。」
「まんべんなくみんなが参加させられるっていうところにもやっぱり良いところがあるんですね。」
「そうだと思うなあ。作りたい変化・効果の一つは、自分の外の世界に触れて固定観念が外れることで、これを多くの人に体験してもらいたいと思っていました。」
「具体的には、”自分の考えを聞いてくれる人がこの世界に居たんだ”とか、先生とか自分の周りの大人は暗い背中を見せながら働いてて、そうはなりたくないって思ってたけど、”楽しく生きている大人もいるんだ”とか、異なる他者とも繋がれる自分がいることとか。”コミュニケーション能力なんて自分にはないって思ってたけど喋ってみたら案外話せて、意外にできるんだな”みたいな。」
「そういう発見はやってみないとわかんないんだけど、そもそも土俵に乗らないと体験できなくて、学校行事の場合、良くも悪くも土俵が用意されているので、等しく体験を得られることの意義はあるかなと思ってます。」
「ぼくの考えとして、小・中学校くらいのときはいろんな体験をしていくのが大切だと思っています。積極的に体験を選び取ることもあれば、「これなんか美味そうじゃないな」って食わず嫌い的に選ばないこともある。
けど実際に食べてみたら、美味しい!って時があって、やってみてから好き/嫌いや得意/不得意は判断される。多様な体験を積むという意味で、小・中学校の授業は一定の機能を持っているんじゃないかな。」
「たしかに、私も体育とか最初はちょっとめんどくさいけど、やり始めたら思っていたより楽しかったりすることはあります。授業ってそういうものなのかも」
”きみはどうしたいんだい?” 森分さんの学生時代と、思い。
「森分さん自身、お仕事をする上でどのような思いを持って活動しているんですか?」
「それでいうと、最初は自分への贖罪みたいな感覚だったんです。」
「贖罪」
「ぼく、大学3年生のときまでは基本的に遊んでたんですね。麻雀とパチンコと、とにかくギャンブルばっかり。今の50代以上の人が国公立大学に入ってよくしていたであろう、現代ではほぼ絶滅した遊び方をしてて。」
「それは反動だったんです。高校まではずっと野球をやっていて、進学校で「勉強も部活も頑張りなさい」と言われて、それを僕は抑圧的に感じていました。そこで、大学に入ったらもっと自由を手にしたい、とにかく遊びたいと思ってぼくの自由を謳歌した結果、就職活動になって大人たちから「君はいったい大学時代何を頑張ったんだ」と聞かれた時に、答えられることがあまりなかった。何も頑張ってなくて。」
「ずっとコンフォータブルな生活を送っていて、『うわ何も残ってねぇなぼくの三年間』と思ってふと高校三年生の自分を振り返ったとき、高校の先生は、果たして僕の大学進学と真剣に向き合ってくれていたのだろうか?」
「きみはどこの大学に行ってどうしたいんだい?みたいな問いがあの時あったら、僕はこうはならなかったのではないか。あのときの先生の指導は、きみはとにかく国公立大学に行け、これだけだった。そんな指導あるのか?」
「考えらないと思って、もう、こんな世界は間違ってる!という八つ当たり的な怒りと後悔の感情に当時は苛まれました。」
「おぉー!」
「これ以上ぼくみたいなクズ人間を生み出しちゃいけない。過去の自分への贖罪のような感覚で、これからの高校生に関しては、僕にはなかった世界線として、きみは大学に行って何をしたいんだい?と問いかけられる環境をつくりたいなと思って、大学院生のときにだっぴの初代代表と、高校生と大人の対話のワークを作りました。」
「そういった過去の経験や思いも現在に活きているんですね。胸がアツくなる話……!!」
「ただ、ぼくはぼくの贖罪。つまり過去の自分の嫌な経験を清算するためにずっと活動をやってきたんだけど、コロナ禍に入ったくらいから急にそのエネルギーがなくなって。このあたりから、贖罪じゃないフェーズに入った気がするんですよ。」
「贖い終わったんだ。」
「感覚的にはそういうことだと思います。こういうのって、自慰的なものでもあると思うんです。過去の自分を助けたい、救いたいみたいな。基本的にベクトルが自分に向いている。そういうところから違和感を感じたんだろうなと思います。」
「本当にそれでいいのか?自己満足でやっているんじゃないか?」
「ベクトルは自分じゃなくて、社会のために本当に必要なことって何なんだろう?だっぴが社会のためにできることって何なんだろう?ということをずっと考えてきていて、この3年間くらいは考えがまとまらないことの繰り返しで、つれえ……みたいな。」
「っていう感じで、ぼくの原動力は少し変わってきたかなと思います。贖罪じゃないという気づきは、なかなかに恥ずかしくて、我ながらダサいなと思うんですが、ここから第2のスタートです。」
「学校は等しく機会を設けられる機能があるという話をしましたが、その『機会』や『内容』は変化を求められています。令和の日本型教育では個別最適化や協働的な学びが推奨されていますが、学校現場はまだまだ対応できていない。『構想』も甘ければ、『実行』できるオペレーションや体制も不十分なのです。」
「また、子どもは学校だけじゃなく地域ぐるみで育てていくという理想もありますが、現実問題としてはまだまだ難しい。学校の外にプレイヤーは少ないし、自分のことで精一杯という自治の力が衰退した現代社会があります。学校の中も外も課題は山積していて、それらの課題を学校や地域と一緒になって解決していきたい。今は、様々な市町村の教育分野のプレイヤーの人たちと連携しながら、課題解決に向けて問い続け、試行錯誤しています。」
「なるほど、教育そのものの構造に、そして自分自身に対しても問いを投げかけ続けているんですね……」
だっぴのお仕事って何が面白いの?インターン生としたいこと!
「中高生だっぴでは、参加する中高生と大人のほかにもう一つ、キャストと呼ばれる方がいるとお伺いしたのですが、だっぴという催しの中でそのお仕事をする上で、どういったおもしろさがあるんでしょうか?」
「キャストの面白さの一つは”学校現場を体験できる”ことです。教育系のボランティアをしたい学生がよく応募していて、学校現場を知るよい機会になっています。」
「あとは、キャストの大学生も中高生と同様に、だっぴを通じていろんな考え方に触れるおもしろさはあります。大学生も中高生と同じく社会に出て働くとは、自分を擦り減らしながら生き抜くことである。みたいな定義をしている人もいて、色々な大人と出会ううちに、実際はそんなことないのかと考えが変わっていきます。」
「わたしもそういった偏見を持ってしまうとき、あります…….」
「周りの大人はそうだったから世の中みんなそうだと思ってたけど、今日出会ったひとは違ったっていう感想は中高生と同じですね。」
「固定観念が外れることを体験できるのは、何も参加者だけではないんですね。」
「あとは、中高生が心を開いてくれた瞬間、活発に自分の意見を場に共有しようとする様子をみて、嬉しさややりがいを感じることも。参加してる人たちが楽しいと思ってくれたら、グループファシリテーターとして、自分も歓びを感じられると思います。」
「これからインターンでだっぴさんに関わりたい!と思った高校生は、具体的にはどんなことを一緒にしていけるんでしょうか?」
「ひとつは、週1で土曜日・日曜日どちらかの17時~19時の時間帯はうちのボランティアの大学生だったら誰でも来ていいよ~という事務所開放の時間にしています。正直あんまり人いないので、その時間を有効活用してもらうよう、たとえばボードゲーム大会を企画してもらうなどが考えられます。」
「あっ、カタンとかある」
「実は色々とボードゲーム置いてるんです。今年、久米南町にユースセンターを作ったので、久米南町のユースセンターでの企画をやってもらうというのもありかも。」
「あとは、”生き方百科”は高校生のインタビュアーもいて、自分の関心分野の大人に取材してもらってて、聞きたいこと質問したり、自分の悩みについて哲学対話みたいな感じで大人と話したりしています。」
「おぉー!いろんな大人の価値観や考え方に触れるのって楽しそうです!!中高生だっぴをお手伝いすることもインタビューをすることも、全部とっても面白そう……!!」
本日のまとめ
”だっぴ”が気になる!というあなたへ
「この記事を読んで、だっぴでインターンがしてみたい!と感じていただけた方には、こちらの”オレンジ”公式Instagramアカウントへメッセージを送れば、簡単にインターンに関する相談ができちゃいます!」
「教育やワークショップ、様々な立場の魅力的な人たちと関われるお仕事に興味のある方はぜひ!お気軽にご相談ください!」
インターン生とこんなことがしたい!
「こちらのマガジンから、これまでに取材した方々の記事を読むことも!」
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