「緊張と緩和」理論を応用した漫才分析手法の提案

笑いの仕組みを説明するものとして、「緊張と緩和」理論がある。これは2代目桂枝雀が提唱したもので、平成4年頃の深夜番組:EXテレビにて上岡龍太郎にこの理論を解説しているのだが、もう少し内容を整理することで漫才のネタ分析にかなり使えそうだと感じたので、お笑いに関しては全くの素人だが整理してみた。

緊張の緩和=展開の裏切り

まず枝雀の言う緊張と緩和は、展開の裏切りとほぼ同義と考えて良いだろう。そこで、ネタの中で何を裏切るのかによって笑いの生み出し方を4タイプに分類したい。

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さらに、裏切りにはハズシオチという2つの方向性がある。つまり、見当違いの方向に本筋を飛躍させて「なんでやねん!」「んなアホな!」というハズシの笑いを生み出すか、意外な方向から本筋を納得させて「なるほどね!」 「うわっあるわー!」というオチの笑いを生み出すかの違いだ。

では、裏切りはネタのどういった展開の中で起こされるのか。ここでは枝雀の分類をそのまま使って4つに分類する。

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つまり、お笑いのネタはどんなタイプの裏切りを、どんな展開によって生み出すか?という観点から見ると分析がしやすくなる。タイムチャート形式でネタの展開を表現すれば、ネタの構造的な特徴や工夫も見えてくるはず。ここではそれを漫才分析に応用してみたい。

漫才の構造の解釈

基本的な漫才は、ボケがハズシ方向の裏切りによって笑いを取り、ツッコミが訂正しながら本筋を進行する構造だと言えるだろう。二人の意見が食い違い、すれ違うことで展開にリズミカルな笑いの波が生まれていく。途中で飽きられないように話の流れを変えたり、ボケ方に変化を加える工夫も良く見られる。

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以上の大まかな基準を元に、以降は具体的な漫才師のネタを分析したい。

ミルクボーイ(コーンフレークの抜粋)

ミルクボーイ

ミルクボーイの漫才は主にオトしで笑いをとっている。漫才らしいリズミカルな展開だが、ボケ(駒場)がハズし側にもオトし側にも筋を振る構造が特徴的。ボケとツッコミの話は食い違って綱引き状態になるのが一般的だが、駒場と内海の話は辻褄が合ったり離れたりする。結果的に合わせ(予想外のあるある)と謎解き(納得感のある毒舌)の裏切りが交互に来るので、客も飽きずに笑い続けられる。

オードリー(引っ越しの抜粋)

オードリー

オードリーのネタは、ボケの春日がツッコむことに特徴がある。価値観がズレたツッコミが、実際にはハズシのボケとなっている面白さがある。それに対して若林も速攻のカウンターツッコミでオトしの笑いをとるため、2つの笑いが1つの大きな笑いに合成される、特徴的なリズムを持った漫才となっている

マヂカルラブリー(フレンチの抜粋)

マヂカルラブリー

マヂカルラブリーのネタはボケがコント世界に入って突っ走り、ツッコミがメタ視点からツッコミを入れていく。だが村上のツッコミは、実際には野田のアクションの解像度を上げ、エスカレートしていくハズシの笑いを強化するリアルタイムのリアクションや実況として機能している。話の展開を変えないのだ。タイムチャートからも、従来の漫才とは一線を画す特殊な構造が一目瞭然だ。それがこのネタの長所であり、後半の失速の要因にもなっている。

ボケがコント世界に入って突っ走り、ツッコミがメタ視点からツッコミを入れていくのは霜降り明星も同じなのだが、霜降りは基本的にせいやの不思議なアクションを泳がせ、客がなんだろうこれ?と予想を始める絶妙なタイミングで、その予想を上回る納得感の粗品のツッコミでオトす、謎解き型の展開で笑いを取っている。タイムチャートの線は激しく上下するので、霜降りのネタは漫才的だと感じやすいのだろう。


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