トロント百景【三、そこに特別に溶け込んでいるナイトバス】


ナイトバス、深く沈んだ夜の間だけ走る、特別なバスだ。夏の間中、トロントの夜には溶けない魔法(というとやや気恥ずかしい響きがある。)がかかっていて、それはもう、全く、夜にならない夜だ。帳の下りない夜だ。街中の人は、いつまでも眠らないことを許されている。覚醒と夢想の混じる頃、下りた帳は街に灯りを連れてくる。ぼんやりと滲んだ、少し憂いをたたえた灯りだ。それは丁度、賑やかなサーカスを、もうすっかり終えてしまったテントから抜け出して、微かに潤んだ瞳で見上げた灯りに似ている。

その灯りに、ただ溶け込んでいる、バス。