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リモコンで涙を拭う夜があっても

こんばんは、一飛です。


タイトルからは何も察せないと思いますが、一飛の中の人にとって、これはとても大切で少しだけ懐かしい思い出の話です。

私は高校生の時、放送部に所属していました。
長年全国大会に連続出場していて(あまり知られていないようですが、放送部にも大会があるんですよ)、私が高校二年生のときも無事に全国大会への出場が決まりました。そして、全国大会出場が決まった先輩たちに後輩二人が全国大会見学という形で東京に行けることになりました。私はその二人のうちの一人でした。
なぜ私が先輩方の見学に行くことになったかというと、私が次期部長になるということが理由の一つでした。
私は特に実力があるわけでもなく(県大会で予選通過できないくらいでした)、「なんとなく」で決まったような部長です。
しかし、それなりに伝統がある部活の部長を引き継ぐということに対して、当時の私は大きな責任と不安を感じていました。

全国大会から帰る前の夜、ホテルで先輩の部屋に集まって色々な話をしていました。(全国大会のことや部活のことを話したり、桃鉄をしたり、テレビで放映されていたホラー映像に全く怖くないアテレコをしたり……それはもう楽しく過ごしていました。)

色々楽しく話して、その後。
私は部長に「次期部長として頑張ります」みたいな話をしました。
その時、なぜか私は泣いていました。それはもうぐしゃぐしゃに泣いていたのです。
自分でもどうすればいいのかわからないくらい、涙があふれて、こぼれて、止まりませんでした。

私は人前で泣くことが嫌いでした。
人前で泣いている人を見ると心の奥が冷え切ってしまうような、そんな心地さえしていました。
泣き顔なんて、どれだけ綺麗な人でも汚くて醜い顔になるものです。私は自分のそんな顔はとても見せられないと思っていました。

だからあの時、自分が泣いていることにひどく戸惑いました。
その時、先輩が言ったのです。
「リモコンで涙拭いとけ」と。
あまりにも唐突に意味のわからないことを言われて「この人は何を言っているんだ」と思いました。それから、その先輩の言葉が少し面白くて可笑しくて笑ったような、そう記憶しています。
「リモコンで拭けるわけないじゃないですか」と言ったような気もします。
ほんの少し、この思い出は私の中で美化されていることでしょうけれど。

今では先輩と疎遠になっていて、これから先もう連絡することはないのかもしれないと、なんとなくそう思っています。
先輩、お元気でしょうか。
あなたの後輩は、ご存知の通り、ずっと目指していた全国大会に出場することはできませんでした。それでも、私の代も全国大会への切符を掴んだ人がいました。報告した時に喜んでくださっていたのを覚えています。
私は先輩のように実績を残せたわけではありません。歯がゆい思いをした時、原稿が全然書けなかった時、部活が辛くなった時が何度もありました。
そんな時、先輩方から部長を引き継いだという事実と先輩の言葉を思い出しました。頑張ろう、と、そう思わせてくれました。

先輩があの時かけてくださった言葉は、今でも未熟な私に救いの手を差し出してくれます。
リモコンで涙を拭う夜があったって良いじゃないか、と。
泣くことは、そんなに悪いことではないのかもしれない、と。