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【読書レポ】イギリスで誕生した砂糖入り紅茶

1.甘くないと飲めない紅茶
私は、紅茶は味が無いから砂糖をたくさん入れると話す人と出会ったことがあります。今では飲み物、とりわけペットボトル飲料は、多くの糖類によって甘いのは当たり前ですし、飲食店でも好みで調整できるように砂糖が添えられています。あえてパッケージに「無糖」や「微糖」と表記して甘くないことをアピールする商品も散見します。甘いお菓子を食べてストレス発散する人もいるのではないでしょうか。今回は、砂糖に注目して、甘いお茶が生まれた経緯を考察した本を紹介します。

紹介する書籍:砂糖の世界史 

2.イギリスの生活を変えた砂糖
今回は、第3章「砂糖と茶の遭遇」を取り上げて紹介します。
 
文中では、一般に砂糖は、①薬品、②装飾品、③香料、④甘味料、⑤保存料の用法があったと紹介しています。薬品と装飾品として用いた事例は、砂糖が貴重だった時代にみられます。
 
16世紀くらいのヨーロッパは、薬品として用いられることが主で、高カロリーの砂糖は即効性のある薬として認識されていました。予防策や治療法が見つかっていないペスト(黒死病)が流行した時代においても、砂糖は効くと考えられていました。
 
砂糖は、食品ではなく薬品であるとする根拠に、『神学大全』という本を書いたトマス・アクィナスが出した結論があります。

アクィナス大先生の結論は、要するに砂糖は食品ではなく、消化促進などのための薬品であるから、たとえ「くすり」である砂糖を飲んでも、断食を破ったことにはならない、というものでした。pp.65

これによって断食の日に砂糖を口にしても咎められず、長い間砂糖は権威を持つことができました。現在のように砂糖による害が疑われ始めたのは、18世紀以降のことです。
 
砂糖が貴重で高額であったにもかかわず、17世紀イギリスでは大量に消費されました。彼らにとって砂糖は、庶民が買えないものであったからこそ消費することに意味があったのです。当時、茶もまた貴重なものであり、薬品として扱われていました。つまり砂糖と茶葉を両方手に入れることができ、かつそれらを贅沢に口にできることは、金持ちであることの象徴だったのです。紅茶に砂糖をいれる発想は、ステイタス・シンボルとして二重の効果を発揮できます。また、王室で茶が飲まれていたことから上品な習慣として認識されていました。その意味もあって、見栄をを張るために茶を飲むことが選ばれました。
 
しかしながら17世紀中頃からイギリスへの供給量が増えたことにより、砂糖は、見栄を張れるような価格から庶民も手が届くほどに安価になります。
 
中国からもたらされた茶とカリブ海からもたらされた砂糖の両方を手にすることができ、一般に普及したことは、それだけイギリスが世界の中心的立場にいることが表れていました。

3.今日はちょっと甘いものを食べて贅沢しよう
甘いものを食べすぎると虫歯になると、子どもの頃はよく大人から言い聞かされては歯磨きの重要性を教わりました。今流行を感じるのは、糖質制限や中毒性の問題です。糖類よりタンパク質を摂取しましょうというダイエット記事は、もう目新しい印象ではなくなったと思います。白砂糖の代わりに甘味料を用いて仕上げられた健康志向のお菓子も見られます。砂糖に対してネガティブなイメージが語られる時代なのでしょうか。
 
砂糖が薬品として使われていた時代は、現在よりも慢性的に栄養不足であったから効果を発揮したようです。そのような砂糖を避けることが健康志向であるような現代では、毎日の食事で十分に栄養を摂ることができるからだとわかります。
 

参考・参照文献:川北稔 1996 『砂糖の世界史』 岩波書店 pp.62-90

ちなみに前回投稿した中世イギリスの紅茶の話はこちら

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