【韓国論文】日韓で異なる差別用語に対する認識
1.日常にあふれる差別表現
変化の早い韓国では、あらゆる差別を無くす活動が行われており、そのニュースは日本にも伝わってきます。
しかしながら、言葉の表現に限って見ると、差別を含んだ語彙が日本よりも普通に使われている現状があるそうです。
今回は、身体が不自由な人を指す差別用語の使用に対した意識が、日韓でどんな違いがあるのか調査した論文を共有します。
共有する論文:ジャン・サンオン「差別語に関した研究―差別の定義と差別語代替表現の日韓比較を中心に―」
2.差別表現に対する感覚の差
この論文は、差別の定義などに関した基本的先行研究を調べながら、差別用語の使用とその代わりになる表現を中心に論文の筆者の意見が書かれたものです。
韓国語と日本語の差別用語に関した比較を通して、代案提示の新しい可能性について検討することを目的としています。
また、論文では身体的障害に対した差別用語を中心に考えています。
論文の筆者は、日本と韓国では、差別用語についた社会的関心に差があるのではないかと実体験も含めて主張しています。
論文の筆者は、なぜ韓国社会では、日本社会のように差別的表現に敏感ではないのか疑問を投げかけました。
まず、韓国で理解されている「차별(差別)」と日本で理解されている「差別」に違いがあるのか、それぞれの国語辞典の記述内容を調べました。
その結果、日本語では、差別とは不平等な対比関係を明確に表現しながら、その原因を不当さや偏見から見つけている。
その反面、韓国語では、このような非対称性に関する言及が弱いことが分かりました。
もちろん、だから韓国では日本より差別に寛容だとすることは早計です。
しかしながら、これを理由に差別が正当化されやすい可能性はあるといえるでしょう。
日韓の国語辞典の記載から、論文では、差別用語を「偏見や先入観にしたがって特定の人物を不当に見下して言い聞かせる言葉」と定義しました。
論文の筆者は、差別用語から差別のない言葉に変えていくように努力しなければ、子どもたちもそのような差別用語を社会の中で習うようになり、何気なく使い慣れていくことで、差別そのものに鈍感になってしまうのではないかと、主張しました。
次に、日本語と韓国語では差別用語の代替表現にどのような言葉が使われているのか比較しました。
その結果、韓国では「○○장애인(障害人)」が比較的多く使われる反面、日本では「○○が不自由な人」という表現が多く使われていることが分かりました。
このような比較研究を通じて、論文の筆者は以下のように主張します。
論文は最後に、具体的な差別用語と代替表現についた調査と整理を今後の課題としました。
3.留学生の視点から
私が通っている大学院では、差別や暴力を予防する講習が必修になっています。
基本的には映像を見るだけなのですが、韓国ではこのような差別や暴力に対する内容の講習は当たり前にあるようです。
論文で指摘されているように、非対象性への言及の弱さや障害人という表現を使うと言う点は、私も実際に講習の動画を見て感じました。
しかも、実際に今大学に通っている、体が不自由な学生が登場するにもかかわらず、それらを障害人と表現するのには正直、カルチャーショックでした。
言葉狩りのようになるかもしれませんが、それだけでも、日本で考えられている「バリアフリー」と私が通っている大学院が考える「バリアフリー」が異なるように感じました。
また、関連して気になることといえば、市バスが全て、車椅子の乗客に対応しているわけではない点も留学に来て受けたカルチャーショックのひとつです。
自治体によって異なるのかもしれませんが、私の住んでいる地域の市バスは、乗降口が前後ろとも階段になっていて、後ろの乗降口は2列で降りるように真ん中に仕切りがあります。
車椅子じゃなくても、大型キャリーを持って乗り降りするのが大変でした。
たしかに、日本だと言葉だけを変えて実態が変わっていないことも多いので、韓国のように言葉よりも実態を変えていこうとする動きは、大事だと思います。
でも個人的には、自分は健常で相手は障害という区分する表現が、相手に対する認識を作る部分も大きいと思うので、論文の筆者の意見に同意します。
今後、韓国がどのようにバリアフリーやダイバーシティを実現していくのか、日本人として注目していこうと思います。
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論文
ジャン・サンオン「差別語に関した研究―差別の定義と差別語代替表現の日韓比較を中心に―」『日本文化研究』77、東アジア日本学会、2021年、pp.277-298
장상언「차별어에 관한 연구 - 차별의 정의와 차별어 대체표현의 한일비교를 중심으로 -」『일본문화연구』77, 동아시아일본학회 , 2021년, pp. 277-298
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