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中小企業経営者のキャリア・アンカーをさぐる

「この取引は条件がよくても、ウチの社長は断るよ」

「この仕事は儲からないのに、なぜかウチの社長は受けるんだよね」

とかとか。
社長の判断に対する従業員の声を聞くことがあります。
中小企業の現場では、社長の一言で仕事が決まることも多い。

従業員からみれば、ときに非合理的な意思決定に見える。
それでも、社長の判断の根っこには、アツい信念があったりします。

この経営者の信念は、キャリア理論でいう「キャリア・アンカー」のようなものかもしれません。

キャリア・アンカーとは

キャリア・アンカーとは、エドガー・シャイン教授が提唱した概念。

キャリア・アンカーとは
あなたがどうしても犠牲にしたくない、またあなたの本当の自己を象徴するコアコンピタンスや動機、価値観について、自分が認識していることが複合的に組み合わさったもの

「キャリア・アンカー」エドガーH.シャイン

ざっくりといえば「キャリアや仕事に対する価値観」

このキャリア・アンカーは、次の8つのカテゴリーに分かれています。

専門・職能別コンピタンス(専門分野、職人)
全般管理コンピタンス(リーダー、管理)
自律・独立(自分のやり方)
保障・安定(安全・確実)
起業家的創造性(新しいことの創出)
奉仕・社会貢献(社会・人の役に立つ)
純粋な挑戦(チャレンジ)
生活様式(仕事と生活の両立)

このカテゴリー分けは、働く人全般を対象にしたもの。
ですので、経営者の持つ価値観をきれいに分けるのは難しいですが、何かしら近いアンカーはあるのではと思います。

経営者のキャリア・アンカー

経営者のキャリア・アンカーは、話を聞くなかで感じ取れることも多い。

イメージとして

「買い物するおばあちゃんの喜ぶ顔が見たいから」という想いで、トラックに食品を積み込み、過疎地域で移動販売を続ける経営者

人件費や燃料費を考えれば、移動販売部門が赤字でも続ける、自身の商売のこだわり(自律)

地元に塾がないという理由で、本業とは関係ない、塾事業を営む経営者。

「地元の子どもたちには学びの場を提供したい」という社会貢献

「この技術を使って、〇〇病で苦しむ人たちを安く治療したい」と意気込むベンチャーの経営者。

この分野の技術力では、大企業には負けない、だからこそ自分たちが、というチャレンジ精神

などなど。

大企業の場合、株主の意向もあり、利益に直接、結び付かないことは手を出しにくい。

所有と経営が一体化した中小企業だからこそ、経営者の価値観が原動力となり、取り組めることかもしれません。

キャリア・アンカーを理解する

創業者の場合、起業の想いや事業立ち上げの意思が強く、会話の節々に経営者の価値観がにじみ出てきます。

一方で、中小企業の経営者のなかには、何度か話をお聞きしても、キャリア・アンカーが見えにくい場合もあります。

自身の傾聴力不足もありますが、表立って価値観を見せず、内に秘めている経営者も多い気がします。

支援者の自分にとって、経営者の価値観を探るのは大事なプロセス。

それは、何を経営課題としてとらえ、何を優先的に解決するかは、経営者の価値観によるところも大きいからです。

例えば、
職人のようなキャリア・アンカーをもつ飲食店の経営者で、自分が料理することにこだわる人に、多店舗展開による業容拡大の話をしても、きっと響かない。

売上増加や生産性アップなど、メリットがあっても、経営者のキャリア・アンカーにそぐわない話はスルーされる可能性が高い気がします。

ちょっとした提案をするときにも、事前に経営者のキャリア・アンカーをつかめると安心しますね。

もちろん、ホームページやパンフレットで、経営理念などは確認できますが、経営者本人とのコミュニケーションを通じて直接、価値観を感じ取れたらと思ってます。

と、そんな思いを持ちながら日々、経営者のキャリア・アンカーをさぐる旅は続きます。

おわり。




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