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勝手にオススメ!『飲食店開業ストーリー本』

飲食店の起業は人気だ。

日本公庫の「2019年度新規開業実態調査」をみると、開業した業種では「サービス業(25.9%)」の次に多いのが「飲食店・宿泊業(15.6%)」。
一方で起業3年後に生き残れるのは3割と言われるように撤退や廃業も多い。

飲食店は、身近な業種で商売がわかりやすいのが特徴ですが、その根底にある店のコンセプトや経営哲学はさまざま。支援の現場で直接、経営者から聞かせてもらったり、本を読んだりすると、思わずファンになってしまうこともありますね。

今回は、飲食店の開業に興味を持つ人が、役に立ちそうなオススメ本を勝手に紹介します。

ドトールコーヒー『勝つか死ぬかの創業記』

16歳で喫茶業に飛び込み、24歳でドトールコーヒーを設立。日本の喫茶業界に新しいビジネスモデルをつくったストーリーは読みごたえがあります。

12時ごろ床に入っても、夜中の2時頃に目が覚める。「倒産」というに文字が、再び頭をよぎる。こんな日々を送るうち、死んで1年たてば保険金が下りることが分かった。「いよいよとなれば視察して保険金で清算すればよいい」そう考えたら気が楽になった。

日本全国に多店舗展開している今のドトールを見ていると、創業時の苦労は想像もつきませんが、順風満帆にきたわけではない。

「古い日本の喫茶業を変える」というアツい信念が「150円(※当時の喫茶店の半値)でおいしい珈琲が飲める」という喫茶店業界のイノベーションを起こしたんでしょうね。

そのときの私には、立ち飲みコーヒーは絶対に成功するとか、失敗したらどうしようか、そういう考えはまったくといってなかった。今まさに立ち飲みコーヒーをやらなければいけない、そして、やるからには成功するまで絶対にやめない。

成功するにはコツがある。それは成功するまでやめないことだ」という経営者の言葉には、実践の重みを感じます。

フレッシュネスバーガー『手づくり創業記』

ほっかほっか亭の創業者の一人が始めたハンバーガー屋の起業ストーリー。

格安の不動産物件に出会って「この物件はハンバーガー屋がいいな」とハンバーガーのつくり方も知らずに始めてしまう行動力がスゴイ。

商売を始めるにあたっては、業界の慣習に従うほうが無難だと思っている人も多いと思う。でも僕の経験からいうと、常識通りにやっていたらいいかというと決してそうではない。むしろ常識から少し外れたところやその反対側に成功のヒントがあるように思う。

マクドナルドが利便性を追求するなら、あえて利便性を追求しない。
オーダーを受けてからお客さんの前でハンバーガーをつくる、手作りにこだわる、そんな逆張りの発想が、尖ったお客さんを引き付けたという。

創業者の考えるコピーもなかなか尖っています。

「マクドナルドの卒業生がモスに行き、モスの卒業生がフレッシュネスへ」

万人に受ける発想よりも、半分の人に嫌われてもいい」と思える「オリジナリティ重視」の姿勢。特に創業期には大事だということに気づかされます。

サイゼリヤ『おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』

テレビ番組「カンブリア宮殿」でサイゼリヤの正垣社長の話を聞いて、思わず買った本。

誰もが知るサイゼリヤ。経営哲学や創業時代の苦労話(1号店は火事に・・)、多店舗展開の仕組みなど、人気店の裏話が満載。

低価格路線を維持するために、数値管理を徹底。自社の農場で牛を育て、野菜を種から開発するなど、無駄な部分を徹底的にコストカットすることで実現されているんですね。

「もっと改善できる」
まるで製造業のように数字でPDCAを回す、現場改善の視点を感じます。

楽コーポレーション『トマトが切れれば、メシ屋はできる 栓が抜ければ飲み屋ができる』

「汁ベゑ」などの居酒屋を運営する楽コーポレーションの社長が語る経営論。従業員の若者たちに「一国一城の主にならなきゃ」と独立を勧めています。

タイトルを読むと「居酒屋は簡単」と勘違いしそうです(笑)

スーパーで1個100円で買ったトマトが、50メートル先にある店で冷やしてスライスしただけで300円になる。うっかりすると「やすーい」なんて、お客さんに喜ばれるような世界だよ。こんな簡単に付加価値をつけられる商売は他にはないじゃない。

でも、この前提にあるのは、お店の創意工夫。
100円のトマトが300円になる、その差額の200円には、お客さんを楽しませる想像力が大事だという。

本書には、そんなお客さんを楽しませる実際のアイデアが詰まっています。
・おいしさのコツを100個しゃべれるネタをつくる
・メニューにワクワクするようなネーミングをつける
・「手羽先は右手がいいですか、左手がいいですか」といったちょっとした声掛けをしてみる などなど。

大事なのは毎日、頭をフル回転して想像力を働かせながら仕事をすること。それができるかどうかが、長く商売を続けるうちに大きな違いになるはずだよ。

お客さんの心を掴むには、お客さんの気持ちを想像する。お客さんの気持ちは、自分がどうされたら喜ぶかを想像してみる。
難しいことではないけど、想像し続けるって高カロリーなアクション。本当に好きなことでないと続けられないですね。

未来食堂『未来食堂ができるまで』

IBM、クックパッドでエンジニアとしてキャリアを積んだ後に開業。
元エンジニアの方らしく、起業ストーリーもロジカルな印象です。開業前に定食屋や大手チェーン店で修業して、料理や店舗のオペレーションを学んで独立。そのプロセスもブログでタイムリーに紹介しています。

あつらえ:自分の希望に合わせて小鉢を追加できる
まかない:50分働くことで、1食分が無料になる
さしいれ:飲み物の持ち込みOKだが、半分はお店に寄付。その誰かが持ち込んだ飲み物を自由に飲める。

など、独創的なシステムがおもしろい。
飲食業のオープンソース化を願う」というエンジニア的な発想で未来食堂の事業計画書を巻末に公開。参考になります。

佰食屋『売上を、減らそう』

「新しい飲食店の働き方」が感じられる本。

『ランチのみの国産牛ステーキ専門店。1日100食限定』

お客さんが最初に知る情報はそれぐらいかもしれませんが、その裏には経営者の想いが詰まっています。

どれだけ儲かったとしても「これ以上は売らない」「これ以上は働かない」。あらかじめ決めた業務量を、時間内でしっかりこなし、最大限の成果を挙げる。そして残りの時間(人生)を自分の好きなように使う、ということ。

『仕事よりも、人生や生き方が大事』

多くの経営者が理想として思っていても、現実には売上を追いかけ、成長志向を目指す。事業を継続するためには、多くの利益や内部留保が重要なこともわかります。

でも、佰食屋の経営者は、理想論ではなく本気で「仕事は人生を豊かにするための手段」という考え。

「家族みんなで揃って晩ごはんを食べられること」
経営者自身が働きたい会社の条件だったことを実践しています。

残業が多くブラックな印象の多い飲食業界にあって、そんな理想的な経営ができるのは、こだわりを磨き、サービスを極限まで削る、仕組ができていること。もちろん圧倒的な商品力が前提かもしれませんが。

自分が嫌なことは従業員にもさせたくない。自分が働きたい会社にしたい、「頑張れ」なんて言いたくない、仕組で人を幸せにしたい・・・・必死で考えて、少しずつ出来上がってきたのが、現在の佰食屋です。

自分らしい生き方をするために飲食店を起業する、そんな人が増えるかもしれないですね。

最後に

本棚から久しぶりに取り出して読んだ本もありましたが、いつの時代も創業者の躍動感を感じます。読み終えて思うのは・・

①『自分が大切にしたい軸』は違っていい。
「喫茶店業界を変えたい」「お客さんを楽しませたい」「自身の働き方や生き方を変えたい」など創業者の想いは人それぞれで、もちろん正解はない。何を自分のよりどころにするかは経営者次第。
でも、事業として継続させるには、自分が大切にしたい軸をしっかり持ち続けること。その軸を持ち続けられれば、ちょっとの失敗でもへこたれず、その経験を活かして次のステップに進めるんでしょうね。

②飲食店の『常識や決まりごと』を疑う。
「FLコストは60%以内」「人通りのよい立地がいい」「夜遅くまで店を開けておく」などなど。歴史の長い飲食業界では『業界の常識』も多い。今回、取り上げた経営者は、業界の常識を疑い、新しい飲食ビジネスを生み出しています。そんな経営者に共通するのは、小さいことでも疑問に思う、そして、思いついたら実行できる行動力が大きいですね。