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「創業支援政策史」からみる創業支援のおもしろさ

起業支援に取り組む中小企業診断士の集まり『スタラボ』

新たな期が始まり、スタラボにも新しい診断士メンバーが参加。ありがたいことです。

今回は、今期のスタラボ活動の紹介とスタラボメンバー間の交流が主題。
普段は、外部の方やスタラボ内の診断士が登壇しますが、今回はスキマ時間ということで、僭越ながら自分がスピーカーを務めました。

テーマは「”20分でわかる”創業支援政策

ちょっと固いテーマですが、起業支援の現場でも背景として知っておきたい知識、と思い選択。あくまで前座でしたので「凝縮しながらもポイントは伝えたい」という意味を込めたタイトルでした。

10年以上前の社会人大学院「政策科学学科」で学んだときの「中小企業政策」本と、ネットで集めた最近の情報に、自身の経験をちょっとブレンドして、なんとかカタチにしました。

そんなミニ座談会の概要です。

1.創業支援政策の始まり

創業支援政策のポイントを3つに分けて紹介。

まずはアイスブレイクのクイズから。
国の創業支援政策はいつ頃から始まったか?

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答えは「1995年」

『中小企業政策の新たな展開』(編集:中小企業庁)のなかで「1995年 中小創造法において初めて創業支援が明確に中小企業政策の課題として提示された」とされている。

中小企業政策は、1950年ごろから本格的に実施されているなか、創業支援政策は意外に新しい。

今でこそ、国をあげて「起業家を増やす」というトレンドだが、中小企業は「過少過多」という認識であり、創業を支援する政策は基本的に存在していなかった。

さらに、当初の創業支援政策の狙いは「開業率の向上」ではない。

1970年代から始まったベンチャー・ビジネス(研究開発・新規開発など)の動きを受けて「新産業の創出」など、最初は研究開発・事業化による新製品・新サービス等の創出が狙いだった。

ちなみに、開業率低下を初めて問題として捉えたのは1990年の中小企業白書とされている。(中小企業政策の総括と提言)

2.基本法改正による『創業支援』の明確化

次のポイントは、1999年に抜本的に改正された中小企業基本法

基本理念が往来の救済型から自立支援型へと変わったり、中小企業のそもそもの定義が変わるなど、中小企業支援に関わる人たちにとって、インパクトの大きかった大改正。

そんな大改正のなかに、さりげなく創業支援政策にも大きな変化が起きていた。

今までの基本法になかった「創業」が13条に新たに「創業の促進」として追加。ようやく「創業支援」が基本法上に明確に位置づけられた。

その一連のなかで、政策対象に事業活動の開始前の「創業準備者」が追加され、創業者を積極的に輩出していく環境が整備された。

3.産業競争力強化法による「地域の創業支援の仕組み」

3つ目のポイントは産業競争力強化法。

2013年の「日本再興戦略」で語られた「開業率を米国・英国レベルの10%台に」という政策目標を実現する狙いがあった。

この法律では、官民連携の支援ネットワークによる地域の創業支援の仕組みを創設。

市区町村が民間の創業支援事業者(地域金融機関、NPO法人、商工会議所・商工会等)と連携し、ワンストップ相談窓口の設置、創業セミナーの開催などの創業支援を実施する「創業支援事業計画」を作成。それを国が認定。あくまで地域主導で、地域で創業を支援するスキームとなっている。

さらに、同法は2018年に改正。「創業支援等事業計画」と「等」が追加された。

この「等」が入ることで、創業に関心がなく、準備段階でもない「創業無関心者」も政策対象に追加された。創業無関心者を創業希望者に引き上げる「創業機運の醸成」への取組みも大きな支援テーマとなっている。

4.まとめ

創業支援政策は、1990年代から本格化。現在に至るまで起業に有利な環境の整備が進んできた。

創業支援政策の狙いは、当初の「新分野の進出」から「地域活性化・地域創生」「雇用創出」「事業引継ぎ」など多様化。さまざまな切り口で「創業支援政策」が議論されている印象。

支援対象も当初の研究開発・ベンチャー系の企業への支援から、基本法の改正による創業準備者、産業競争力強化法の改正による「創業無関心者層」の追加など、支援対象のすそ野も広がっている。

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とはいえ、日本再興戦略でKPIとされた開業率は、2019年 4.2%と当時の開業率よりも減少しており「道半ば」という印象。
創業を取り巻く課題として、次のようなものが考えられる。

①起業の多様化への対応
社会課題の解決のための起業、シニアの起業、専門性の 高いスタートアップ系の起業など、起業のカタチも多様化しており、相手の創業者に合わせた対応が必要。

②地域の支援機関の人材不足
地域によっては、商工会、商工会議所などの支援機関で創業支援に取り組む支援人材の不足。

③創業支援のアウトリーチ
創業支援が必要な人に、なかなか支援施策が届けられない。


創業支援を取り巻く課題も大きいですが、創業支援のやりがいも、また大きいもの。創業者の課題解決に伴走していく創業支援は、ますますおもしろくなる気がします。

おわり。