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それぞれの中小企業論

縁があって大学で、非常勤講師として「中小企業論」を担当しました。

社会に出て20年以上、中小企業支援のフィールドをふらふらしていますが、自分にとっても改めて「中小企業とはなんぞや」を考える機会でした。

日本の企業のうち、99.7%は中小企業。

圧倒的な存在感を持ちながらも、実態があるようで実はつかみにくい。

その理由は、「異質多元性」という表現のとおり、多種多様な個性派が数多く存在していることも大きいですね。

ものづくりの町工場も、まちのラーメン屋も、最新の研究開発を担うスタートアップ企業も、従業員数と資本金が中小企業のカテゴリーにあてはまれば、みんな中小企業。

そんな身近な存在でありながら「奥行きの深い」中小企業について、ちょっと考えてみました。

1.中小企業のイメージ

「中小企業」と聞いてどんなイメージを持つか。

もちろん、人によってイメージは違うと思いますが、時代によっても、中小企業のイメージは変化しています。

まずは、1972年版の中小企業白書で紹介された「中小企業イメージ調査」。

対象は学者、金融機関関係者、大企業関係者、中小企業経営者でしたが、すべての調査対象グループで「大企業への従属」「不安定」「弱小企業」など中小企業に対する「暗いイメージ」が50%以上

逆に「小まわり」「バイタリティ」「日本経済の担い手」などの中小企業の特性を評価するイメージは17%と低い。

「二重構造」問題と呼ばれる、大企業と中小企業の間の格差が残る1970年代という時代背景を考えると、ネガティブな印象が強かったのもわかります。

一方、最近の調査として、関智宏先生の大学生を対象とした中小企業のイメージ調査。データ分析の結果、中小企業に対する13のイメージが挙げられています。

1 大企業と比べたとき、ないし対比したときのイメージである。具体的には、大企業と比べて、数が多い、規模が小さい、従業員が少ない、給料が安い/低い、大企業の下請、である。
2 日本経済を支えているイメージである。
3 銀行の融資を受けているイメージである。
4 仲が良いイメージである。
5 縁の下の力持ちのイメージである。
6 ある分野に特化しているイメージである。
7 独自の技術を持っているイメージである。
8~13(略)

出典:中小企業をイメージする(2017年)関智宏

この調査では「日本経済を支えている」「縁の下の力持ち」「独自の技術をもっている」など、ポジティブなイメージが多いのが印象的。

1972年のイメージ調査とは対象者も異なり、単純比較はできませんが、最近の中小企業のイメージには「がんばっている」「前向き」「積極的」な印象が感じられます。

この背景には、戦後から日本の経済を支えた中小企業のガンバリはもちろん、規模は小さくても技術力のあるスタートアップの活躍など、さまざまな要素が考えられそうです。

あとは、政策的にも1999年に中小企業基本法の改正により、「過小過多で、一律にかわいそうな存在」から「独立した多様で活力ある存在」と認識を大きく変え、中小企業のポジティブな面に、よりスポットライトをあてたのも大きかったんでしょうね。

2.中小企業はどんな存在か

戦後の発展期、中小企業は大企業の「下請」という役割が強くありましたが、今では大企業との関係だけでは語れない存在。例えば、

・スタートアップやベンチャー企業として、新しい製品やサービスを生み出すクリエイターやイノベーター。

・下町ロケットの佃製作所のような、尖った技術を持って国内だけでなく海外とも直接取引ができるようなグローバルニッチトップ。

・高齢者や障がい者の介護・福祉、子育て支援、まちづくり、環境問題などの社会的課題の解決を目指すソーシャルビジネスの担い手。

・大企業が進出しない(できない)分野で、地域に密着して雇用を担う地域密着の企業。

などなど、活躍のフィールドが広がっています。変化の激しい時代、規模が小さくても、経営者の個性やスピード、創意工夫できるチームがつくれれば、中小企業の存在感はますます大きくなりそうです。

また、テクノロジーの進化やデジタル化の動きも、顧客との接点を直接、持ちやすくなったり、コストを低減させるビジネスモデルづくりなど、多くの中小企業には追い風になりますね。

3.働く場としての中小企業

働く人の約7割は中小企業で働いている。

多くの人にとって、中小企業を最も身近に感じるのは「働く場」としての存在かもしれません。

ただ、東京で働いていると、その存在感は少し弱くなる。

中小企業白書の「都道府県別の中小企業の従業者数の割合」をみると、1位の鳥取県は、中小企業で働く人の割合が.94.2%に対し、大企業の割合はわずか5.8%。一方、47位の東京都は、中小企業で働く人の割合のほうが少なく41.3%、大企業の割合は58.7%。

地方圏では、中小企業の従業者数の割合が大きく、首都圏は小さい。地方圏では、中小企業が地域の雇用を支える役割が大きくなっています。

 ■都道府県別の中小企業の従業者数の割合(会社及び個人の従業者総数)

出典:2020年版中小企業白書

ただ、地方では、就職時に若者が地元から流出していることも多い。貴重な働き手の流出は、地域に根ざす中小企業にとっても、人口減少や少子化に悩む地域社会にとっても大きな課題です。

その動きを止めようと日立市では、地元の中小企業に就職した新卒者には祝い金として30万円を支給する取り組みをしています。行政も地元の中小企業への就職の後押しに積極的ですね。

最後に

「中小企業」を語るとき、何を、どう語るか(ちょっと大げさな言い方ですが)

実は、語る人の中小企業に関わってきたバックグランドで味(話の内容や伝え方)が大きく変わる気がします。それは何が良くて何が悪いというわけではなく。
例えば、大企業出身か中小企業出身か、どのような業界出身か、専門分野(人事労務、マーケティング、製造ほか)、中小企業の経営者との関わり度合い、など。

中小企業の教科書的な理解は同じだとしても、語る人のバックグランドで、「中小企業とは」というテーマにオリジナルなスパイスがかかるのかもしれません。

自分の場合はきっと、「中小企業支援」のバックグランドのスパイスが効いた「中小企業論」だったのかな、と改めて思います。


中小企業の理解には、個性ある中小企業の一つひとつの「木」をみながら、中小企業群の大きな「森」をみていく。その往復をひたすら繰り返すことで、少しずつ「中小企業」の解像度が高まり、全体像が見えてくるような気がします。

とはいえ、時代の変化とともに、新しい個性ある中小企業が生まれ、その集合体の中小企業群も変化していく。その変化が続く限り、中小企業論の道には、終わりがないんでしょうね。

おわり。