波のカナタ 高2_10 文化祭

文化祭 晶 功 7

 晶は、文化祭実行委員になる。
夏休み明けで準備期間が少ない。高2で部活はメインだし、塾や予備校に行く生徒も多い。晶は、一人で残っている。劇とダンスをする。劇の大道具と背景を作る。模造紙に絵の具で背景を描いたり塗ったりしている。
そこへ、佐々木功が来る。
「アレ。晶だけ?」
「あ。功くん。部活、今終わり?」
「ん。__今までやってたの? もしかして一人で」
「うん。これでいいと思う?」晶が立ち上がって、背景を眺める。ずっと塗っていると何を描いているのかわからなくなってくる。
「晶、上手ー。俺もやるー」
「えっと、じゃあ、ここお願い」
二人で、背景を塗る。真っ暗になる。

下校時間になり二人で帰る。別れ道がくる。佐々木功は自転車を押している。晶は電車通学。
「駅まで送るよ」
「うん」……。なんだコレ? 付き合ってるみたい。って、そんなわけないけど。
……わかんない。
もはや、どっちでもいい。キミがいればそれでいい__。
星が流れる。きっと今日という日をいつか思い出すよ。キミといたかけがえのないときを。たとえそれが一瞬のヒカリだとしても。

©️石川 直生 2021.

 文化祭 金曜日 晶 功 8
文化祭前日の金曜日。朝、教室に入ると人がザワザワしている。教室の後ろに置いてあった背景がボロボロに破かれている。晶はそれを見てショックを受ける。始めは3人で描いた。功くんが手伝ってくれて、ここ一週間はいろんなクラスメイトが手伝ってくれたのに。晶、思わず俯くとポタンと涙が零れた。佐々木功がやってくる。晶の頭をくしゃっとする。功が晶の涙に気付く。功が、え、と思っていると、晶は走って教室を出ていってしまう。
「晶! ちょ」佐々木功は、背景の模造紙がビリビリに破れているのに気付く。

クラスの体育委員で一緒だった北宮 夏実が佐々木功を廊下に引っ張っていく。
「佐々木くん」
「何」
「ちょっと」
以下、夏ちゃんの話。
昨日、後ろの男子生徒三人が20時に校門な。え、本当にやる気? 当たり前だろ。気にいらねー。悪ー。と言っていた。
なんのことか、そのとき分からなかったけど。たぶんこのことじゃないか。

佐々木功が北宮に尋ねる。
「誰」
「主役とメインキャラの合わせて三人」陸と取り巻き二人の男子。
「マジで? 自分の舞台じゃん」
「アイツら、桑ノ葉くんいないとき全然練習しないでさ。BLなんてやってられっか。キモイ!!とか言って。明日、やる気あんのか疑問なんだけど」
「晶への嫌がらせってこと?」
「他に何かある?」
「そんなら、最初から引き受けなきゃいいのに」
「女子とラブシーンがしたかったんじゃないの。けどJの狙ってた女子が嫌だって却下になったから、仕方なくBLになっちゃったの」
「ええー??」
「桑ノ葉くんのところに行ってあげて。背景、女子で描き直す。佐々木くんもマジメな男子集めてよ」
「わかった。ありがとう」
「明日のことも考えといたほうがいいかも」
「……マジで?」
「なんもなきゃそれでいいし」
「わかった。晶探してくる」

晶を探す佐々木功。階段を下りて下足箱にくる。
「晶!」晶は、反射的に逃げようとする。

「待って! 背景、夏ちゃん達女子皆で描き直すって。だから、大丈夫だよ。ホラ、おいで」
晶、功から顔を背けたまま立ち止まる。
次の瞬間、佐々木功に抱きしめられる。
晶の瞳から、そんなに悲しくもないのに何故か涙が零れた。
「功くん。__俺、なんかした?」どうして
「晶は、なんもシてない。俺は晶の味方。どうしたい? 犯人見つけたい? それとも」
「それよか、描き直したい。そんで犯人なんてどうでもいい。文化祭を無事に終わりたい。__それだけ」
「ん。そうしよ。戻れる?」
「ごめん。ちょっと、まだ……」晶は震えている。

朝の会が始まったのか誰もいない。
「ジジイの暴言暴力思い出して__。功くん。俺、人の悪意とか怒りのポイントがわかんなくって。__怖い……」どうして子供に怒りや拳をぶつけられる? こっちにとっては理由がわからない。ただ暴力がしたい。イラついたときにちょうどいい小さな自分がいたから? ぐるぐると黒い渦が胸を渦巻く。消えろ。逃げろ。誰も信じるな。触るな。寄ってくんな。__平気を装え。こんなの平気。気にしない。関わりたくない。__どうしてそっとしといてくれないの。
「晶だけじゃないよ。俺だってジジイ大嫌いだし、あの背景メチャクチャにしたやつ大嫌い。__大丈夫。そばにいるから」晶、涙する。

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佐々木 功です。え。ありがとう。晶ー!なんか挨拶だって。晶です。え? えっと。え。柚子です。お金は大事だよ〜♪お気持ちだけで。