YouTube頻出コメント『寝る前に母がよく歌ってくれました』を161件集めた
YouTubeに上がっている、激しいロックのミュージックビデオ。
そのコメント欄を見て笑ってしまった。
なんて激しい母なんだ。
高速で絶叫で轟音のロック。寝かしつけから最も遠そうな曲なのに。
家庭によって育児のやり方は千差万別だな、とただただ驚いた。
ところが後日、別の動画で。
えっ、ここにも激しい母が?
現代社会を強烈に風刺したロックで寝かしつけていたのか?
念のためコメントの投稿者を確認したが、最初の動画とは別人だった。
どうやら世の中には、子守唄らしからぬ「激しい曲調」や「激しい歌詞」の歌を子守唄とするお母さんがいるらしい。
どれぐらいいるのか? どんな曲を歌うのか?
いざ、自由研究だ!
YouTubeのコメントを収集する
先ほど挙げたような「激しい子守唄コメント」を掘り当てるため、YouTubeからコメントを可能な限り収集しよう。
まず、国内のYouTubeチャンネルが4万件以上登録されているサイト「ユーチュラ」において、「音楽」に分類されているチャンネルを全て調査対象とする。そのチャンネル数は3334件である。
次に、Googleが提供しているプログラムを利用して、3334件のチャンネルに上がっている動画を全て調べ、それらのコメントを収集した。
その結果、60万8133本の動画から4687万9112件のコメントが得られた。コメントの文字数は総計19億3117万9957文字である。
プログラムによる自動収集とはいえ、集めきるのに1カ月強を要した。
ここから「寝る前に母がよく歌ってくれました。」に類するコメントを探すわけだが、肉眼でちまちま読んでいると終わる頃にはドラクエ1000が出てしまう。
当然、コメントの抽出にもプログラムを活用しよう。
近年は私のような一般人が扱えるプログラムも進化しており、「眠れない時よく母が歌ってくれました。」など、細部が多少異なるコメントも含めて抽出できるのだ。
これによってコメントをある程度まで絞り込んだ後、以下の基準で選別した。
その結果、集まった「激しい子守唄コメント」は118本の動画で161件!(つまり、子守唄コメントが複数ついている動画もある)
全てを記事に載せるとベラボーに長くなるので、全件の一覧は私の個人サイトに掲載した。興味があれば見て頂きたい。
ここからは全体の傾向を調べつつ、コメントを抜粋して紹介していこう。
誰が歌ってくれたのか
最初に見つけたコメントは「母が歌ってくれました」だったが、母以外の人が歌ってくれた子守唄もあるんだろうか。集計結果がこちらだ。
なんと、圧勝はおばあちゃん!
「激しいお母さん」より「激しいおばあちゃん」の方が多いとは思わなかった。いくつか紹介しよう。
■[Alexandros] 『ワタリドリ』
アップテンポなだけじゃなく、音域がかなり広い曲だぞ。こんなに歌唱レベルの高いおばあちゃんがいるとは。
■鏡音リン・みきとP 『ロキ』
ボカロ曲を歌うおばあちゃんまで。流行に敏感だ。
というか、選曲以前に「おばあちゃんに子守唄を歌ってもらった」人がこんなにいるのが驚きなんだが。みんな二世帯住宅で育ったの?
おばあちゃんに次いで多いのは母、そしておじいちゃん、父と続く。
ああ、わかっている。一番下が気になるんだろう。紹介せねばなるまい。
■B'z 『ultra soul』
夜は家族で大合唱である。しかもこの曲を。
パート分けはどうしていたんだろう。おじいちゃんがボーカル、おばあちゃんがボイパで、「ウルトラソウッ! ハイ!」の「ハイ!」がペットちゃんだったのかもしれない。
あと、なんで「ペットちゃん」って濁すんだ。人には言えないペットを飼っていたのか。
コメントの投稿日
次に、コメントの投稿日を分布図にしてみよう。
激しい子守唄の報告は2018年から増え始める。ピークは2020年だ。
おそらく、他人の子守唄コメントを見て記憶がよみがえった人がコメントし……と、あちこちの動画で連鎖が起こったのだろう。
しかし注目したいのは、ひとつだけ2015年とダントツで古いこと。
これが何の動画についてるどんなコメントかは、記事の後半で紹介したいと思う。
では、曲をジャンルごとに分けて、具体的にコメントを見ていこう。
ロック部門
激しい曲の王道と言えばロック。すなわち子守唄の王道でもある。
■RADWIMPS
映画『君の名は。』のテーマソングで有名なバンド。子守唄に採用されるのも当然と言えよう。たとえばこの曲だ。
息継ぎを挟む間もないほど密度の濃い高速ボーカル。カラオケで選曲しようものなら、歌い始めた10秒後に後悔することでお馴染みである。
それが、子守唄。
歌った後、当のおばあちゃんが息切れしてないかどうか心配だ。
■布袋寅泰
国民的ギタリストの有名曲だって子守唄になる。
確かに「ベビベビベイベ」って言ってるけど。
他人事ながら、果たして安眠できるのかとヒヤヒヤさせられる。これがスリルか。
■SiM
全編英語の歌詞、止まらぬヘドバン、響き渡るシャウト。
どこを切り取っても眠れそうにない曲だが、なんと子守唄コメントが5つもついている。
大人気じゃないか。
こんなに歌われているなら、温泉のリラクゼーションスペースとかで流してもいいのでは……ん?
どういうこと? 間違い?
ラップ部門
ロックと並んで子守唄コメントが多いジャンル、それがラップである。
■SOUL'd OUT
ネットでもしばしば話題となり、多方面から支持されるグループ。それは子守唄業界も例外ではない。
毎晩フロアを沸かす母。赤ちゃんが身体を揺らしてノリ始めてもめげずに歌い続けよう。そのうち寝てくれるはず。
■Creepy Nuts
テレビ等への露出も多く、人気を博しているグループである。
俺たちは何にだってなれる可能性を秘めている、と訴えかける歌詞。考えようによっては、子どもへのメッセージと言えるかもしれない。
だけど、聴かせるとしても寝る前じゃないでしょ?
ボカロ部門
初音ミクなどのボーカロイドを使用した楽曲には、常人にはおよそ不可能な速さでまくしたてるものがある。
それを子守唄にする家庭があるのだ。古舘伊知郎も舌を巻くだろう。
■裏表ラバーズ
■脳漿炸裂ガール
そんな中、群を抜いて歌われている子守唄がこれだ。
■初音ミクの消失
聴く者すべての度肝を抜く早口から始まる、ボカロ界でも最高速の歌。
さあ、子守唄勢がやって来るぞ。
ここまで報告が多いと、さすがに気づく人もいる。
知ってしまったか、この世界を。
特殊なコメント
ここまでは音楽のジャンル別で紹介したが、コメント自体が変化球という場合もあった。
■現在進行形
過去の話ではなく、今まさに歌ってもらっている人からの報告である。
現在形だ。現役のお子様からのスクープだ。
というか、お母さんは知っているんだろうか。まさに今「これが僕の子守唄だよ」と世界中に公言されていることを。
■受け継がれる意志
子守唄は、家庭に根付く文化と言っても過言ではない。だからこういうこともある。
世代を超えて歌い継がれるのだ。
十世代ぐらい後には「我が家に昔から伝わる歌じゃ。意味はわからなくてもいいんじゃよ」と、おばあちゃんが暖炉の前で語ってくれるはずだ。
■インストゥルメンタル
「歌ってくれました」からは外れるが、こういう例もある。
難易度Sクラスのピアノ曲で寝かしつけていたという。子どもが寝るかどうかはさておき、夜中の演奏で隣人からクレームが来たりしなかったのか。
元祖はこれだ!
さて、覚えているだろうか。ひとつだけ2015年のコメントがあったことを。
激しい子守唄を最初にカミングアウトした革命家とも言えるだろう。
それは、この曲だ!
■T.M.Revolution 『HOT LIMIT』
なんと、夏の定番曲「HOT LIMIT」である。
大切な思い出をどうもありがとう。
しかも、おばあちゃん風にアレンジしていたというディテールまで。もはやプロの歌い手じゃないか。どんなアレンジだったんだ。気になって眠れないじゃないか。
実際に眠れるのか?
激しい子守唄をこれでもかと紹介してきたが、どうしても解決したい問題がある。
実際に、これらの曲で眠れるのか?
試してみよう。
激しい子守唄コメントがついていた曲をSpotifyで集め、プレイリストを作成した。
Spotifyに存在しない曲もあったので全曲とはいかなかったが、105曲の「激しい子守唄」プレイリストができた。(noteに埋め込むと、なぜか100曲しか表示されないのだが)
長さは6時間30分ほど。おお、ちょうど一晩の睡眠時間ぐらいじゃないか。
■1日目:聴きながら寝てみる
最初はシンプルに、プレイリストを聴きながら寝てみよう。
「何曲聴いたところで眠ったか」を検証するため、手に数取器(交通量調査でカチカチするやつ)を持って寝ることにする。1曲聴き終わるたびに1カウント。寝落ちすればカウントできなくなるという算段だ。
さらに「お母さんに歌ってもらっている感」を出すため、スマホの上にお母さんのイラストを立てる。
最低限の予算で開発された「お母さんAR」である。
準備完了。あとは、Bluetoothイヤホンをスマホに接続して布団に入るだけだ。
大丈夫、私には106曲の子守唄(激しい)がついている。
じゃ、おやすみなさーい。(再生ボタンをタップ)
寝れねぇ
どの曲も主張が強すぎる。よってたかって鼓膜をこじ開けてくる。こいつらオールナイトでぶちアゲるつもりだ。「まだまだイケるかー!」と煽る声が聞こえてきそうだ。
しかし、歌詞以上に眠りの妨げとなるのがドラムである。
テンポよく鳴り響くバスドラムとシンバル。まるで開戦を告げるゴングのごとし。「立て、立つんだフクイチ!」
いや、こちとら今から寝るんだよ。ダウンしてるよ。見ての通りだよ。
0.5秒ごとに眠気を破られる拷問に耐え切れず、8曲ほど聴いた時点でギブアップした。
だが、一晩であきらめるわけにはいかない。少なくとも、どの曲にも子守唄として使われた実績があるはずなのだ。
私が曲を受け入れる態勢がよくないのかもしれない。
■2日目:音質を変えてみる
1日目の敗因は「音源をそのまま聴いてしまった」ことに尽きる。
子守唄なんだから、ボーカルをもっと聞こえるようにしなければ。
Spotifyには「イコライザ」といって、曲の音量を周波数ごとに変えられる機能がある。
バスドラムとシンバルの刺激をなるべく抑えるため、低音と高音のボリュームを最小に、中音域のボリュームを最大に設定した。
また、1日目は耳栓型のイヤホンを装着したが、今度は耳を完全には塞がないタイプのイヤホンに変えることにする。
激しいお母さんたちも、まさか耳の穴にストローで子守唄を注入していたわけではなかろう。
これで少しは「お母さんが歌っている感」に近づくはず!
じゃ、おやすみなさーい。(再生ボタンをタップ)
あ、多少は聴きやすくなった。ドラムが控えめになっている。聴覚をダイレクトに攻められた1日目とは違い、音が風に乗って運ばれてくるような印象になった。
そうだ、これはロックフェスで遠くのステージから聴こえてくるあの感じだ。布袋のハイテンションなギターがうなり、[Alexandros]が流麗なリズムをとどろかせ、SOUL'd OUTが軽快なスクラッチを披露し、うん、寝れない。
多少工夫したところで、曲の激しさはとどまることはなかった。この日は14曲でギブアップである。
どうも、歌詞というより楽器の方が妨げになっている傾向がある。
お母さんが歌ってくれた子守唄となればアカペラのはず。どうにかして、その状態に近づけねばならない。
そうなると、手段はひとつ。
■3日目:母に歌ってもらう
私:だから、ultra soulで寝れるかどうかを試してみたいねん。録音してくれへん?
母:えー?そんなん、子守唄と程遠い曲やけどなぁ。
私:LINEのボイスメッセージってやつで送れるから。
母:わかったわ。練習するわ~
実家の母(60代)に歌を発注した。
普段は韓流ドラマの主題歌しか聴かない母である。邦ロックやラップは管轄外、ボカロなどもってのほか。
よって、激しい子守唄の中で最も知名度が高いと思われる「ultra soul」をリクエストした。
数時間後。
1番のサビのみではあるが、母から「ultra soul」のアカペラが届いた。感謝しかない。
さっそく聴いてみた。
母のultra soulは、B'z稲葉浩志の粘り強い歌声とは全く違う。石橋を叩きながら一言ずつ確実に、噛みしめるような歌い方である。
ぜひ皆さんにも聞いてほしいが、母の肉声を全世界に発信するのはためらわれるので、長男の私が歌い方をマネしてみた。
最初の「いきまーす」から最後の「やったー」まで母の完コピである。珍しいノリ方だ。ひとまず楽しそうで何よりである。
そして、夜通し聴いていたのではさすがに眠れなさそうなので、届いた音声を編集し、母のultra soulが1時間ほどループする音源を作った。
さあ、これを聴きながら眠りにつこう。
今夜こそ、正真正銘「お母さんの子守唄(ultra soul)」による検証が実現するのだ。
じゃ、おやすみなさーい。(再生ボタンをタップ)
久しく帰省できておらず、顔を合わせていない母の声。
家事をしながらよく歌っていた母の声。
お気に入りはカーペンターズとスピッツと鳥人戦隊ジェットマンのテーマだった母の声。
楽器が無いおかげで、1対1で母と対面するような心境になる。
ああ、次に会えるのはいつだろうか……
……じゃないよ。今から寝るんだよ。真剣に実家を思慕してどうする。
夢は今から見るんだよ。
寝室のドア開けたら空調が逃げるから。閉めさせてよ。
ここに来て、ボーカルのみになった弊害が表れる。歌詞に憎しみがわいてくるのだ。
母さん、確かにあなたの息子はウルトラソウルを受け継いだかもしれない。だけど、どんなにウルトラなソウルでも不眠不休ってわけにはいかないんだ。
10分ぐらいは聴いただろうか、だんだんultra soulがお経になってきた。なんとなく睡魔が顔をのぞかせる。しかし、
「ソウル!」の盛り上がりで何度も起こされる。
繰り返すこのウルトラソウル、寝ても覚めてもウルトラソウル、夢の果てまでウルトぐああああああああああああああ! 寝れねぇえええええええええええええええええええ!
1ループごとにカウントしていたのだが、結局31ループ、15分ほど聴いたところでイヤホンをかなぐり捨てた。
母さん、歌ってくれてありがとう。
そして、ごめんなさい。
■考察
そもそも、子守唄は何のために歌うのか?
複数の育児書を参照したところ、「赤ちゃんに寝る習慣をつけるための儀式」としての効果があるという。
つまり、どんな歌であっても「この歌詞はこういう意味で……」と考えられる知能を備えてしまうと、その時点で「寝る合図」としては機能しなくなるわけである。
なるほど、YouTubeでよく見る「睡眠導入動画」には、さざ波や焚き火などの環境音が多い。頭が働いてしまうと眠れないからだ。
母さん、やっぱりごめんなさい。
おわりに
本記事の執筆にあたって、子守唄に関するアンケートをとった。
「どんな子守唄を歌っていましたか?」という質問には、こんな回答があった。
安らかに眠れそうな定番曲が多いが、個性の違いが表れている。中にはこんな回答もあった。
世界に一つだけの唄。
やはり、子守唄は家庭によってさまざまなのだ。布袋寅泰やSOUL'd OUTまで登場するとわかった以上、どんな曲が歌われていてもおかしくない。
もし、読者の中に子育て中のおばあちゃん、お母さん、おじいちゃん、お父さん、ペットちゃんがいれば、ぜひ参考にして頂きたい。
じゃ、おやすみなさーい。
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