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マキシマム ザ ホルモンの"半角スペース"はいつ確定したのか?

大好きだから、はっきりさせたかった。


はじまり

ロックバンド「マキシマム ザ ホルモン」。
ボーカル&ギターのマキシマムザ亮君が、全楽曲の作詞作曲、そして解説を手がける。

解説?

ホルモンのCDでは、全ての楽曲に対して、マキシマムザ亮君が長文の解説を書いているのだ。
音楽を言葉で説明するのは反則。そんなのは百も承知と言いながら、何としても曲に込めた想いをリスナーにぶちかましたいという。

こちとらそうでもしねえと伝わらねえんだよ!!!!ちくしょーー!!!!
(アルバム「予襲復讐」付属のブックレットより)


さて、普段から聴いているホルモンの曲、どんな解説だったっけと昔のアルバムを見返していた私は、noteの火種となる一節を目撃した。

アルバム「ロッキンポ殺し」に収録の楽曲「アナル・ウィスキー・ポンセ(Re-rec.)」の解説。

これは2002年にマキシマムザホルモンが発表したマキシシングル「肉コップ」に…

えっ!


「マキシマム ザ ホルモン」の書き方

「マキシマム ザ ホルモン」は、「ザ」の両脇に半角スペースを入れるのが正しい表記である。公式サイトのQ&Aにも明記されている。
ネットでは以下のような表記をよく見かけるが、どれも誤りだ。

マキシマムザホルモン
↑ スペースが入ってない。やり直し。

マキシマム ザ ホルモン
↑ 全角スペースになってる。やり直し。

マキシマム・ザ・ホルモン
↑ その・はどこから持ってきたんだ。早くナオト・インティライミとユースケ・サンタマリアに返してあげなさい。やり直し。

あまりに間違いが多いので、楽曲「maximum the hormone」では"半角開く「ザ」の両脇"と、歌詞にまで織り込まれている。

♪半角開く「ザ」の両脇~とかもう、自分でも神懸ったな!って思ったくらい。『マキシマム ザ ホルモンのザの両脇は半角開けるのが正式表記だ!』っていう怒りのメッセージが見事歌詞にハマった

(雑誌「MUSICA」2011年5月号 マキシマムザ亮君インタビューより)


これを脳に叩き込んだうえで、亮君の解説を読み返そう。

これは2002年にマキシマムザホルモンが発表したマキシシングル「肉コップ」に…

半角スペース入ってへんやんけ!

どうした、亮君。怒りのメッセージはどこ行った。
あれだけこだわっている表記を、まさか自分で間違えた…?

考えたくない。信じたくない。
思考回路のカーナビは、5Gの速度で最適なルートを導いた。

初期の頃は、はっきり決まってなかったのでは?


調査開始

今でこそバンド名表記は統一されているが、結成間もない頃はブレてたこともあったんじゃないか?
そう考えた私は、ホルモン初期のCDを開き、中身をくまなく確認した。

結果、「マキシマムザホルモン」表記を3ヵ所で発見。

①マキシシングル「肉コップ」の歌詞カード
 楽曲「ジョニー鉄パイプ」が"編曲:マキシマムザホルモン"とある。

②マキシシングル「延髄突き割る」のCDジャケット裏
 "【ボーナス映像収録】動くマキシマムザホルモンが見れる!アバラ・ボブLIVE映像!!"

③アルバム「糞盤」の帯
 "マキシマムザホルモンのセカンドアルバム その名も「糞盤」!!"

ここでひらめいた。
メジャーデビューのタイミングで決まったんじゃないか?

2004年、ホルモンは大手レコード会社のVAPに所属し、同年6月23日にメジャーデビューシングルをリリースしている。
上に挙げた①~③の作品は、いずれもメジャーデビュー前のものである。
バンドの大きな節目にあたって、改めて表記を定めたのかもしれない。

そして、最初に気づいた「ロッキンポ殺し」の曲解説も、この理屈で説明できる。

これは2002年にマキシマムザホルモンが発表したマキシシングル「肉コップ」に収録された曲のリメイク版ですな。

「ロッキンポ殺し」自体はメジャーデビュー後のアルバムだが、リメイク曲の解説では「当時は表記が固まってなかった」ことを示すため、わざとスペースを抜いてるんじゃないか?

個人的には納得のいく仮説が得られた。
しかし、ひとりで考えただけでは不安がある。ぜひウラを取りたい。

そこで私は、ホルモンをマネジメントする事務所「ミミカジル」に、疑問に思った経緯、根拠、結論をまとめたメールを送った。

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さあ、あとはミミカジルからの回答を待つだけである。

待つだけである。

待つだけにしときゃよかったのに。


仮説の棄却

回答メールを待っていた、ある日。
どういうきっかけだったか、「ロッキンポ殺し」の歌詞カードを再度見ていた私は気づいてしまった。

別の楽曲「上原~FUTOSHI~」の解説。

マキシマムザホルモンのベーシスト上ちゃんの歌を作ってみました。

うわっ!見落としてた!
「マキシマムザホルモン」は一か所じゃなかった。
しかも、ここでは過去を振り返っている節はない。明らかに「2005年、メジャーデビュー後のホルモン」として「マキシマムザホルモン」と書いているのだ。

この瞬間、「メジャーデビューで表記が決まった」説は白紙である。

どうしよう。もうメール出しちゃったよ。

「すみません!まだありました!」と撤回のメールを送るのもどうなんだろう。
ただでさえ突然のメールなのに、職員さんを混乱させてしまう。

よし、ミミカジルへの問い合わせはそのまま置いとこう。何か言われたら「私がバカでした」ということにしよう。
その代わり、自分で徹底的に調べる。
歌詞カード全部読んで、DVDくまなく見て、雑誌のインタビューも読破して、「いつ表記が定まったのか」可能な限り明確にしよう。そうしないと納得できない。


徹底調査開始

まず、現時点で言えることを確認したい。

アルバム「ロッキンポ殺し」の曲解説には「マキシマムザホルモン」表記があった。なおかつ、別の箇所には「マキシマム ザ ホルモン」もある。
よって、「ロッキンポ殺し」がリリースされた2005/03/02までは、表記の混在期である。

一方、"半角開く「ザ」の両脇"と歌う楽曲「maximum the hormone」がリリースされたのは2011/03/23。これ以降を表記の確定期と呼ぼう。

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ここからさまざまな資料を調査し、混在期と確定期の境目はどこなのかを絞り込んでいく。


混在期はいつまでか

「ロッキンポ殺し」以降の作品を順に見て、表記がブレてないかどうかチェックする。

まずは、2008/01/11発売のバンドスコア「ベスト版3」で発見した。

あのシーンをCDのメインジャケに使ったマキシマムザホルモンの攻めっぷりを…
(p.18より)

「マキシマムザホルモン」を確認。
これで、混在期が2008/01/11まで続いているとわかる。

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次いで、DVD「Deco Vs Deco~デコ対デコ~」。

「ぶっ生き返す!!ツアー 追加蘇生公演」の冒頭で流れるテロップに注目する。

「ぶっ生き返すツアー」はマキシマム ザ ホルモン始まって以来の全箇所ソールドアウトとなった。
(中略)
マキシマムザホルモンはこの矛盾した状況に真っ向に立ち向かうべく…

短い映像の中で、スペース有りと無しが登場する。
DVDの発売日は2008/03/19。混在期を延長させよう。

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そして、亮君が過去に更新していたブログ「今日の亮君」。
全ての文章を確認した結果、2008/04/27の更新に「マキシマムザホルモン」があった。

これから20年後
マキシマムザホルモンのCDやTシャツ、スコア、DVDが
君たちにとってのトリップのアイテムになれることを祈って・・・。

さらに伸びる混在期。

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これ以降、公式サイトやメンバーのブログで「マキシマムザホルモン」は見つからなかった。
また、2008/04/27~2011/03/22の期間、ホルモンがリリースしたのはマキシシングル 爪爪爪 /「F」 のみだが、これには表記の混在は見られない。

よって混在期は「少なくとも2008/04/27まで続いた」と言うのが限度である。


確定期はいつからか

カギとなるのは、楽曲「maximum the hormone」だ。
"半角開く「ザ」の両脇"とシャウトする、この曲の歌詞はいつ出来たのか?

DVD「Deka Vs Deka~デカ対デカ~」に収録のオフショットによると、レコーディング日が2010/12/09とある。
レコーディングというからには歌詞は決まっているはず。
つまり、確定期をその日まで延伸できる。

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同じDVDで、さらなる手がかりを発見。
紅一点のナヲ(ドラム担当)の出産に密着したドキュメントによると、プリプロが2010/04/03に行われている。
プリプロとは、「レコーディング前の仮録音作業のことで作品の仕上がりを左右する重要な作業の一つ」。(DVDのテロップ)
それなら、おそらくこの時点で歌詞はできていたんだろう。確定期がさらに伸びる。

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しかし、歌詞が出来た時期はここまでしかわからなかった。
他のCDやDVD、雑誌等を見ても、これより早い「半角スペースが正式表記」宣言は見当たらない。

じゃあ、絞り込みはここまでが精一杯か…?

と終わりかけたところで、私は最後の手がかりを入手した。

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雑誌「GiGS」2008年9月号のホルモン特集。

注目すべきは、全編にわたって「マキシマムザ亮君」を「マキシマム ザ 亮君」と書いている点である。
間違えやすいが、「マキシマムザ亮君」はスペース無しが正しい。これは明らかな誤植だ。

しかし、この誤植はなぜ生まれたのか?

記事のライターは、わざわざ「マキシマム ザ 亮君」と、入力モードを切り替えつつ半角スペースを入れたのだ。意識しなければ起こらない現象である。
ということは、ライターには「ザの両脇は半角スペース」という言語化された知識があって、「マキシマムザ亮君にも半角スペース入れなきゃ」と思い込んでしまったのでは?

…と逆算していくと、

何らかの形で「ザの両脇は半角スペース」情報がライターに伝わっていた。
すなわち、
ザの両脇は半角スペース、と公式に決まっていた。

これが成り立てば、雑誌が発刊された2008/07/27まで、確定期を拡げられるんじゃないか?

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境目を年単位まで絞り込める、魅力的な仮説である。

だけど、かなり強引だなあ…だいぶ憶測入ってるよなあ…
一瞬、出版社にウラ取りのメールを送ろうとしたが、10年以上前の誤植をほじくり返されるのも理不尽だよなと思いとどまった。

残念ながら、この説は根拠不十分につき却下である。


結論

以上の考察により、本調査の結論を述べよう。

マキシマム ザ ホルモンの"半角スペース"は、2008/04/27~2010/04/03の期間内で正式に確定した。

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…と、ここまで絞り込んだはいいものの、全てただのファンによる推理でしかない。公式情報では「いつから」とかはなく「ザの両脇は半角スペース!」の一点張りである。
最初の仮説でミミカジルに送ったメールにも、一向に返信がない。

うん、わかるよ。正式表記は半角スペース、わかるよ。
だけど、そうじゃない時期もあったよね?
そこに説明がないなら、私は表記へのこだわりをどう理解すればいいの?


最終結論

悩んだ末に、私がたどり着いた最終結論。


こうやって調べさせること自体、マキシマムザ亮君が仕掛けた罠だったんじゃないか?


混在期を堂々と放置して、あるとき突然"半角開く「ザ」の両脇!"と叫ぶ。
矛盾した状況を作り出しておけば、ネット上で「昔は半角開いてなかった!」と鬼の首を取ったように書くやつが出るはず。
そして、粘着質に「いつ決まったんだ?」と調べ始めるはず。

亮君はここまで計算してたんじゃないか?
そして計略にハマったのが私、ではないか?

何をバカな、と思うかもしれないが、亮君はこれぐらいのことはやりかねない人物である。


本当はみんな自分のこだわって作ったもん隅々まで味わって残さず食べて欲しいに決まってるんだよ!で 食べた後に大満足にゲップしてもらいたいわけよ!

(アルバム「予襲復讐」付属のブックレットより)
ラーメン屋の食券機のメニューの中に「醤油」も「塩」も「味噌」も「とんこつ」もいろんな種類を用意して、それを客に選ばせるのは嫌なんです。メニューは一個だけで、その中にすべて入れて食べさせたい。

(雑誌「GiGS」2019年1月号 マキシマムザ亮君インタビューより)

あるときは、ホルモンを深く知ってもらうため、ホルモンに関するマニアックな問題だらけの「試験」を開催する。
またあるときは、亮君が全面監修した「漫画」をCDに同梱して、CDショップより"ジャケ買い"の文化が残っている「書店」で売る。

常識外れ、採算度外視のアイデアを総動員して、考えているもの、創り出したものを全て受け取らせようとしているのだ。丸ごと喰らわせる魂胆なのだ。それがマキシマムザ亮君という男である。

実際、私はこの調査をきっかけに曲解説を全部読み返した。大量の雑誌インタビューを読んだ。「楽器やらないから」と敬遠していたバンドスコアも全部買った。
これをさせたかったのではないか?半角スペースを操作してまで。

もはや推測を超えて願望である。亮君はこれぐらいのことを企む人であってほしい、ただそれだけ。
だが、作り手に作品へのこだわりがあるのなら、受け取り手としてのこだわりも発揮させてほしい。
バンド名の真相を暴こうとしたつもりが、亮君の掌の上で踊らされていた。そう思いたい。

亮君この野郎!よくもホルモン漬けにしてくれたな!
めちゃくちゃ楽しかったぞ!


おわりに

今でも、Webで「マキシマムザホルモン」をよく見かける。noteでも。
そこは半角スペースが入るんだ、固有名詞は正確に書かんかい、と指摘したくなる。

でも、しない。
私はホルモンじゃないから。

名前を間違えられて怒る権利があるのは、本人だけだと思う。
いちファンでしかないのに「間違ってるぞ!」と小突いて回る警察ごっこはしたくない。

だから私は、誰に届こうが届くまいが、noteの端っこでシャウトするしかないのである。


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参考資料一覧

※所持しているアイテム全てではなく、本noteの参考にしたもののみ掲載します。

■CD
肉コップ
耳噛じる
延髄突き割る
糞盤
ロック番狂わせ / ミノレバ☆ロック
包丁・ハサミ・カッター・ナイフ・ドス・キリ / 霊霊霊霊霊霊霊霊魔魔魔魔魔魔魔魔
ロッキンポ殺し
ざわ・・・ざわ・・・ざ・・ざわ・・・・・・ざわ
恋のメガラバ
ぶっ生き返す
爪爪爪 /「F」
グレイテスト・ザ・ヒッツ 2011~2011
予襲復讐

■DVD
Deco Vs Deco~デコ対デコ~
Deka Vs Deka~デカ対デカ~

■バンドスコア
ベスト版
ベスト版2
ベスト版3

■雑誌
GrindHouse Magazine Vol.41
GiGS 2007年5月号
DVD INDIES ROCK MAGAZINE 2007年5月号
bridge 57号
MUSICA 2008年8月号
ベース・マガジン 2008年8月号
ROCKIN'ON JAPAN 2008年8月号
BUBKA 2008年8月号
GiGS 2008年9月号
ROCKIN'ON JAPAN 2008年10月号
ベース・マガジン 2009年5月号
サムライマガジン 2009年8月号
プレイボーイ No.36
ROCKIN'ON JAPAN 2009年10月号
ROCKIN'ON JAPAN 2009年11月号
ベース・マガジン 2010年2月号
TATTOO girls vol.9
ROCKIN'ON JAPAN 2010年10月号
MUSICA 2010年10月号
GiGS 2010年11月号
GiGS 2011年5月号
MUSICA 2011年5月号
ギター・マガジン 2011年12月号
TATTOO BURST Vol.71
Quick Japan 108号
ROCKIN'ON JAPAN 2013年9月号
ギター・マガジン 2013年9月号
ROCKIN'ON JAPAN 2015年8月号
GiGS 2019年1月号 No.479

■Webサイト
マキシマム ザ ホルモン公式サイト
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