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チャーハンを焼きめしと言い張るカンサイボーヤ

あの料理は「チャーハン」なのか?「焼きめし」なのか?
考えもしなかった問題が突如として、パラパラにスパークした経験がある。

チャーハンを注文した日

中華料理好きの舌をつかんで離さない店、「餃子の王将」。
神奈川にあるひとつの店舗が、このnoteの舞台だ。

その日、餃子の王将なのに餃子は頼まず、私がオーダーしたのは”チャーハンセット”。

「チャーハンセットですね。かしこまりました。」

注文してから考える。
「餃子の王将」で餃子を頼まない、この姿勢はどうなのか?
店名で推されているメニューを意図的に外す。アイドルのセンターにあえて注目しないかのような、陰のスターを発掘したい欲望。
そんな不純な動機で注文されて、チャーハンはうれしいだろうか?

着地点の無さそうな思索は、料理の到来とともに湯気の向こうへ消えてしまった。


「お待たせいたしました、焼きめしセットです」

やったー、おいしそうな焼きめしセットだ!
よーし食べるぞぉ、いただきま焼きめしセット!?

え、私が頼んだのはチャーハンセットのはずでは?


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ほら、メニューにもしっかり"炒飯セット"と書いてあるが?
まさかと思ってメニュー全体を再確認したが、"焼きめしセット"なるメニューは見当たらなかった。

しかも不可解なことに、届いた料理はどこからどう見てもチャーハンセットなのだ。
唐揚げ、スープ、棒棒鶏サラダ、杏仁豆腐、そしてチャーハン、いや焼きめし…?
写真を撮り忘れたのが痛恨の極みだが、お盆の上にはメニューそのままの光景があった。

注文を取ったときは"チャーハンセット"、持ってくるときは"焼きめしセット"。
厨房で注文がすり替わってしまったのか?

デートの相手がいつの間にか双子の妹と入れ替わったかのような、攻略難易度の高いイベントに遭遇してしまった。王将で。

おいしい。


帰宅して調べてみた。
"チャーハン"と"焼きめし"はどう違うのか?

「焼きめし」という言葉は、17世紀前半の狂歌の中にあり、東日本では焼きおにぎりのことを指していました。なので、東日本で「焼き飯」と呼ぶと、焼いたおにぎりと間違うことがあり、炒めたご飯を「チャーハン」と呼んで区別するようになったのです。西日本では、このように間違う心配がなかったため、「焼き飯」という呼び方が定着しました。

上記以外にも複数のサイトを確認したが、
・東日本では「チャーハン」と呼ぶ
・西日本では「焼きめし」と呼ぶ

という説明は大同小異である。
※「レシピが違う」という説もありますが、このnoteではこのまま進めます。

確かに、兵庫の実家で母は「晩ごはんは焼きめしやで」とよく言っていた。
「チャーハンやで」は、聞いたことない気がする。

ここで、ひとつの可能性が浮上した。

私は関西弁なまりが強い。
あまり自覚はないのだが、初対面の人とちょっと話すだけで「関西出身ですか?」と聞かれてしまう。
出自が秒でバレる、スパイには向いてないタイプの成人男性だ。

ということは、餃子の王将の店員さんは、私が発した
「チャーハンセットください」
のイントネーションから、この客が生粋のカンサイボーヤであることを見抜いたのでは?

そして、関西風の呼び方で提供してあげようという粋な計らいで"焼きめしセット"と言い換えてくれたのでは?

めっちゃええやん。
王将のおもてなしってこんなハイレベルやったんか。ディズニーランド顔負けやん。
てか店員さんすごいな。おれのなまりが強いとはいえ、注文のわずかなやり取りで出身地を特定するとは。
方言ソムリエなん?「利き方言」の資格でも持っとるん?


焼きめしを注文した日

後日、同じ王将に行く機会があった。

方言ソムリエの店員さん、おるんかなぁ。
おるかどうかわからへんけど、あんだけレベル高い接客テクを見してくれるお店やし、客としても歩み寄りたいわ。

よっしゃ。王将のサービス精神に敬意を表して、今度は積極的にカミングアウトしたろ。
すなわち、

オーダーで"焼きめしセット"と注文しよ

どや。これやったら確実やろ。
ソムリエも方言テイスティングせんでええやろ。

カウンター席に通されるフクイチ。
再度、メニューに隅から隅まで目を通し、"焼きめしセット"がどこにもないことを確認。
精神を神戸三宮にワープさせ、ワールド記念ホールみたいな形の呼び出しボタンを押す。

方言ソムリエじゃない店員さんがやって来た。


「ご注文おうかがいします」

焼きめしセットで。

「焼きめしセットですね、かしこまりました」


…オーダー通った!!

王将が三宮になった瞬間である。
もうここ神奈川とちゃうで。走っとるんは東急やのうて阪急や。

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私と店員さんの心は一本のレールでつながり、あずき色の阪急電鉄が血液のように駆け巡る。中吊り広告でほほ笑むタカラジェンヌ。

なつかしい気持ちになった。
神戸の大学に通っとったのに、神戸観光とか全然せえへんかったなあ。バイトばっかりしとったなあ。
でも、GOING KOBEフェスで警備のバイトしたとき、ガガガSPの生演奏聴けたなあ。めっちゃ盛り上がっとったなあ。

移動が難しいご時世やけど、神戸行きたいわ…

ふるさとを想う純朴な思索は、料理の到来とともに湯気の向こうへ消えてしまった。


「お待たせいたしました、横から失礼します。
 …チ、チャーハンセットです」

いや焼きめしちゃうんかい!
おれ「焼きめしセット」言うたやん!「かしこまりました」言うたやん!
さっきまで三宮やったのに、なんで関東に戻すねん!
見てみ、もう阪急電鉄車庫入っとるやないか。終電早すぎやろ。

しかもあれやろ、"チャーハンセット"のとこ、ちょっとためらったやろ?
"焼きめし"でええんやで?言い間違いちゃうで?
方言ソムリエのホスピタリティどこ行ってん!


気づいてもらえない寂しさとともに、身も心も関東に戻ったカンサイボーヤ。

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おいしい。


結局どっちやねん

納得のいかないカンサイボーヤは、ついに王将について調べ始めた。

ひょっとして、関西の王将では"焼きめし"と呼ばれているのでは?


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王将は各店の地域性やお客様ニーズに応えるため、エリアごとのメニューをご用意しています。

うわ、めっちゃ期待できるやん!
「エリアごと」って、つまり"そういうこと"やろ?

関西のメニュー、見てみよか!


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チャーハンやないか



※「あなたの神戸をおしえて」や「方言note」にあてはまらなくもないnoteかな、と思いましたが、両企画ともすでに完走されているため、タグ付けは控えました。

タダノヒトミさん、猫野サラさん、おつかれさまでした!


お金をください!