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「エレクトロニ子のビートメイク生活」を、ふわふわゆるりと全曲紹介

最近、とあるアーティストが好きになりました。
ほぼ週一回のペースで、YouTubeに楽曲を投稿している「エレクトロニ子」さんです。

最初にこの動画を目にしたのは、何かのおすすめだったか、関連動画だったか、正確には覚えていません。
偶然に運ばれてやってきた、どこかアンニュイさがただようこの女の子を見たとき、新しい興味の扉が開きました。


電子音を中心とした、ボーカルが一切無い穏やかな曲。
表情ひとつ変えずに聴き入る女の子。

好き。
曲も、動画も。

聴く人を、無理に揺さぶろうとしていないのがいい。
波止場で休んでいる舟のように、女の子が前後に揺れながら、曲にひたっているだけ。画面にはその光景が続くだけ。
曲のゆったり感とシンクロして、世界観を押し付けられるのではなく、いっしょに聴いているような気分になりました。

この子に名前はあるのかな、できれば名前で呼びたいと思って、Twitterでエレクトロニ子さんにお聞きしました。
何か別の名前があるわけではなく、「エレクトロニ子」と呼んでいいですよ、と答えてくれました。

「エレクトロ二子」さん。
「エレちゃん、って呼んでいいですか」と聞いて、快諾してもらえました。
自分から人にあだ名をつけるなんてめったにないので、とてもうれしかったです。

2月29日現在、エレちゃんはYouTubeに12曲を公開しています。

じゃあ、全曲とことん聴いてみよう。
聴いて、観て、思い浮かんだ光景や感覚を言葉にしよう。
音楽に詳しいわけじゃないけど、楽しみ方に正解は無いと思う。私の楽しみ方を、一枚の画面に起こしてみよう。

それが、このnoteです。

本題に入る前に、ちょっとだけ余談です。
去る2月26日。
私がエレクトロ二子さんに「エレちゃんって呼んでいいですか」と聞いたちょうどその頃、

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なんと、Twitterで「エレちゃん」がトレンド入りしていました。
まさか私の部屋にTwitter社の隠しカメラがあるのかといぶかったのも束の間、これはスマホゲーム「FGO」のキャラクター「エレシュキガル」を指す愛称、のようです。
文章のふわふわ感から「あ、こいつGoogle検索しただけだな」と察して頂ければ幸いです。

話がそれました。
では、全く知らないゲームを説明するようなふわふわ感が楽しい、エレちゃんの楽曲を紹介しましょう。
音楽に造詣が深いわけではないので、専門的なことは言えません。私が曲や映像から感じたことを、なるべくそのまま書くようにします。
人によって感じ方は変わってくると思うので、皆さんにはぜひすてきな曲を聴きながら、自分はこう思ったな、と対比を楽しんでもらえたらいいですね。

なお、どれから聴こうか迷ったら、まずは「SODA MACHINE」から聴くことをおすすめします。

VHS

最初の一音でぐっと心をつかまれました。だんだん厚みを増す曲調、まばたきみたいに鳴動するピアノ。
後半はちょっと雰囲気が変わって、洞窟に入ったような静けさ。そして元の明るさに戻ります。
ホログラムのような色調でリズムをとるエレちゃんは不意に変化します。いくつもの輪郭に目移りしながら、じっと見ていてください。


CHEEK STICK

前作から変わって、高揚感を呼び覚ます曲。
弾むようなピアノ、ドラム音の切り替わりに自然と身体が動きます。バックに流れるベースの旋律を耳で追いかけるのも楽しいです。一日をおだやかに終わりたいとき、作業の合間に気分転換したいとき、思い出される曲です。
この作品で私がいちばん印象的なのは、曲の明るさと気だるそうなエレちゃんのギャップでした。何か落ち込むことがあって、ちょっとでも気分を変えようとこの曲を聞いて、でも心の重りが溶けずに悩んでるのかな、などと想像します。


SWIPE WORLD

水が流れているような、焚き火の薪がはじけたような、不思議な温度感のSEで始まります。
少し不安げなイントロの隙間から、じんわりと光のようににじみ出てくるメロディ。もやもやした感情をかかえてネットをさまよい、心の琴線にふれるものを見た瞬間、エレちゃんの中でこの曲が生み出されたのかもしれません。
映像は、エレちゃんの「耳」に気づいたとき、ちょっとびっくりしました。暗がりの中で、スマホだけがうっすら虹色に光っているという、明暗のデザインも好きです。


BORDER

ここはどこでしょう。かすかに聞こえるのは鳥の鳴き声でしょうか、それに淡く重なって伸びゆく音はコーラスのようにも聞こえます。
今までの作品と違って、エレちゃんの表情が見えません。メロディーの抑揚も控えめです。動画を見つめつつ、自分の心をのぞきながら聴くのがいいかもしれません。
イメージの世界にひたっていると、時折ちょっと鋭い音が差し込まれ、一瞬リアルに引き戻されたかのような感覚を味わいます。しかし間髪入れずに幻想的な音色が続くのは、もう少しイメージのままで居させてほしいから、かも。


INU

かわいらしさにあふれる動画の奥から、やわらかな感触のイントロがころころと躍り出てきたとき、口のはしっこでニヤリとしてしまいました。
背景で跳ねているドットも、全体の色調に溶け込んでいます。ひとつひとつがわいわい、がやがやとしゃべっているようにも見えます。
主旋律と伴奏のアクセントが微妙にずれているのは、どちらかがエレちゃん、もう一方がワンちゃんの心情なんでしょうか。お互いの心は見えないけれど、ずっと触れ合っていたいのは同じじゃないかな。
時折、エレちゃんがちょっと長めに目を閉じるのも好きです。


MAGIC HOUR

これまでとはちょっと違う、リアルめなギターの音から始まります。そして、すーっと入ってきて伸びてゆく低音は、発車ベルを合図に動き出す、まさにここで描かれている電車のようです。
非日常的なスローペースで動く電車。日頃から乗り慣れている地下鉄とのカルチャーギャップを感じます。車窓の景色や光をひとつ残さず大事にして、お客さんにゆっくり見せたいのかな、と考えます。

電車のせりふを想像してみました。

「私は進むよ。でも、誰も置いていかないよ。」

曲も空もあまりにきれいすぎて、エレちゃんの「頭上」に気づくまでだいぶ時間がかかりました。


FANTASY

くぐもった音色のメロディー。ちょっとおどけたような歪みをまとって上下する音。半分ぐらい進んだところで不意にやってくる、目の覚めるような美しいフレーズ。
それら全てをバックにして、イントロのリズムは最後まで途切れることがありません。周囲の雑音が聞こえるかどうかの境地で、物語に没入するエレちゃんを表現しているようです。
休み時間の教室みたいなざわめきのSEも登場し、新しさを感じさせます。空耳で、ちょっとだけお菓子の名前が聞こえたような…


INNER CHILD

シンプルな背景でアクセサリーも一切ない、純粋にエレちゃんにフォーカスした動画。絵柄がリアルになっているのはすぐに気づきますが、特に髪の毛や肌のグラデーションに注目したいです。身体は動きを見せないけれど、移ろいゆく心情がカラーに表れているのかもしれません。
今までの作品に比べると、ドラムなどの音もやや強めです。エレちゃんの中で、どんな想いが波打っているんでしょうか。
そして、同じ旋律の繰り返しかと思いきや、微妙に変わっていく音色。後の方になるほど厚みを増して、どんどん好きな音になっていきます。


ELECTRIC SEA

重力が取り払われた世界でただようエレちゃんと機材。背景のネイビーブルーからも、深海を連想させる動画です。四方八方からやってくるエコーが束になって、ひとつの曲として耳に届きます。
全体的にゆるやかに揺れ動くリズムの中で、少し疲れているようにも、放心しているようにも見えるエレちゃん。これがエレちゃんの作曲環境だとすると、作業に一息ついているところでしょうか。海底から湧き出る泡みたいに浮かんでは消える音符のひとつひとつを拾って、この曲ができたのだとしたら素敵です。
「終わり方」も新しいので、最後まで聴いてほしいです。


REM

いよいよ眠りにつこうとベッドに入ったのに、身体が覚醒を欲しているのか、日中よりも目がさえて寝つけない。たまにあるそんな夜を思い起こさせるような、ほんのりと明るい曲です。
困ったことに、さまざまな個性をもつパートが重なって、どんどん楽しい曲になっていって、このまま聴き続けたくて、寝るのが惜しくなっちゃうんですよ。そりゃ口笛も吹きたくなりますよ。ぬいぐるみもギターもすでに夢の中なのに。
そんな0時10分です。


作業用MIX

ここまでの10曲がつながった、30分ほどの「作業用MIX」も公開されています。

エレちゃんかっこいいな。


SODA MACHINE

大好き。

これ、大好き。

エレちゃん本人もつぶやいてますが、最高です。

自動販売機のボタンが左から右へと明滅するようすは、あまりにも日常的すぎて、私たちは見過ごしてしまいます。
ですが、エレちゃんの手にかかればこの通り、幻想的な風景を作り出す立役者として活かされるんです。
そして、動画のシークバーが進むとどうなるか。ぜひ確かめて下さい。

曲は夜明けを感じさせるイントロから始まり、ドラムもベースもリズムもメロディも、全てが美しさでできているハーモニーが続きます。一瞬だけドラムが途切れるところもいい。
水晶がはじけるようなパートを楽しんだら、これまでの作品すべてを凝縮した上で新しい世界に踏み込んだような、渾身の盛り上がりがやってきます。もう思考を忘れて聴き入るしかない。

そして、もうちょっと聴いていたいな、と思ったところで、消えゆくように終わる。

リピートボタンはどこですか?


RE:CORD

一曲ごとに、新しい楽しみを提供してくれるエレちゃん。
ジリジリと鳴り続けるホワイトノイズ。動画にもたまに粗くなる瞬間があったり、いつのまにか色のバランスが変わっていたり。機材をつなげるケーブルの接触がよくないと起こる現象ですが、こうやって楽しめる要素にしてくれるとは。
どちらかというと人工的な音は少なめで、シンプルな曲です。だけど、不意にフレーズが途切れたり、爽やかなメロディが通り抜けたり、遊びはたくさん散りばめられています。
レコードに何と書かれているか、一時停止して確かめたのは私だけではないはず。


LAUNDRY

コインランドリー!そうきたか!
私も一時期、コインランドリーはよく利用していました。あの待ち時間は音楽でも聴いてぼーっとするしかないですよね。
でも、そこはこんなにスタイリッシュではなかった。どこにあるんでしょうか、このファンキーなコインランドリー。洗濯機のメタリックな扉がとてもかっこいいです。
わくわくしながら再生すると、リズミカルなハイハットから始まって、電子音らしからぬ暖かさをまとった音符が、鼓膜の上を次々と飛び跳ねてゆきます。
それに合わせて床の光も踊り出し、動きがパズルゲームみたいで楽しいなと思っていたら、本当にゲームを想起させるサウンドが共鳴する。すごい。
温風を浴びながら転がる毛布に謎めいた貼り紙、背景にも遊びがたくさん仕掛けられています。刺激的なコインランドリーをぜひ訪れて下さい。


IN THE BRAIN

仕事の問題で悩みながら晩ごはんを楽しみにするように、思考が一点に集中せず、ふたつのテーマを反復横跳びで考えることがよくあります。エレちゃんの頭の中で脈動する前後ふたつのインジケーターは、そんな様相を表現しているのかもしれません。と、いつもながらわがままに想像します。
心のよりどころを探しているような、ちょっと不安げな旋律から始まりますが、ピアノの音に誘われてだんだんと明るい曲調になっていきます。脳の迷宮の中で糸口を見つけたかのような希望を感じます。
「LAUNDRY」に引き続き、シューティングゲームみたいなSEが時折顔を出すのも、ゲーム音楽好きとしてはうれしい。
そして、最後まで再生したら、エレちゃんに注目しながらぜひリピートしてみて下さい。思わぬ仕掛けが隠されていたことに気づくでしょうか。


おわりに

いい曲を作り続ける人には、これからもずっと活動していてほしい。
もちろん、受け手がそれを強要することはできません。活動するのもしないのも、アーティストの意志ひとつです。

だけど、今まで作ってくれた作品を存分に観て、聴いて、思いを書くことはできる。
「受け取った」と発することはできる。

妄想もだいぶ入ってるけど、こんな風に楽しんでいる人がいると表現したくて、固まりがちな心をできるだけ解きほぐして書きました。

エレちゃん、応援してます。

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