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白砂

くしけずる  
みずのおと

まるみを帯びた指の骨

あらい終えた
やわらかな濡れ髪を
撫でるように風がやさしく吹く

ほそい畦道に稲が揺れている

九月、瑞穂の蒼い獣の背に
仙界の煙霧を夢にみていた

十月、塵芥を拾い 
刈り取られた命の航跡を素足で確かめた

数えきれない年月の経過
抱えきれないかなしみの棘

ふみしめられた季節の数だけ
流れおちた大粒の雫が
地図に目印をつけていく

迷わないように
さだめられた宛先に
手紙が届けられ
幾年もの偽りのない愛を倣い
小さな欠片をのこしながら
あらたな命は芽吹く

秋場の風が強く吹いている

獣は背をゆらし
返す波が頬を撫でた

櫛をとおす 母のゆび
無垢なる白砂の みずのおとが

きこえてきます

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