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高架下の幽霊

わたしが住んでいるアパートは、目の前に京急電鉄の高架がある。

この高架下では横浜大空襲の際、たくさんの人が折り重なるようにして亡くなられた。
それで、近所に住む人はよく幽霊が出るって言うけれど、私はまだ一度も出会ったことがない。

ところで、戦時中の標語にこんなものがある。

「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」

これは、国が物資を軍需用に優先するために生活用品が不足したことにより生じた不満を抑えるために導入された標語で、乏しい生活を強いられても工夫で乗り切れる、という意味だが、
戦地に男手を取られ、女達だけで家を守っていた最中、誰からともなく、標語の工の字にペケを付け、「足らぬ足らぬは夫が足らぬ」と揶揄する者が現れたそうだ。この町で幽霊に出会うとしたら、きっとそんなふうに生きて、そして死んでいった女の幽霊だと思っている。


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